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第1話
番になって3ヶ月の新婚ホヤホヤな俺たちは同じ営業部所属である。普通なら番になった時点でどちらかが移動になるのが通常だけれど、共に営業成績トップを常に独占していることもあり、現状維持とのお達しが出て二人して喜んだのは言うまでもない。
「あっれ?」
今日は取引先との大事な商談が朝イチで入っている。家から直接向かう予定をしていた俺は、いつもよりも早めに出なければならなかった、のに。
探し物のせいで予定よりも5分もロスをしていてイライラしていた。
(もーう、遅刻する!!)
「おい、シンジ!俺のジャケットは?」
ベッドの布団と化した男に不機嫌さ丸出しで声を掛けた。ゴソゴソと動いたそれから頭がほんの少し見える。
「知らね」
ふわ、とよく知る甘い香りがした。
「げ、お前もしかして」
多少強引に布団を剥がすと、その探し物は見るも無惨な形で発見されて。
「も……、なんだよ」
「なんだよじゃねえよ!俺のジャケット!!」
これ、高いのに!ここぞというときに使うやつ!!
「……他の、使えば……?」
未だに半眼でモゴモゴ喋るこの男こそ俺のパートナーであり、同期であり、社内初オメガで営業部長に昇進した超エリート上司のシンジなのである。
「スチームアイロン掛けるから、それ返せ!」
「……ジャケットで商談は決まらないよ」
「知ってる!!!」
最もだ。分かってる。でも、これは験担ぎってやつであって、要は気分の問題だ!
「それよりお前、巣作りしてんの?なんだよ、前以て言えよ」
しゃがんでシンジの顔を覗き込んだ。
「……言ったところでどうなんの?」
ほぼ空いていない瞳がこちらを見る。
「ほら、だって……、色々心の準備、とか。あんじゃん?」
オメガの巣作りは、発情期前の生理現象ではあるけれど、必ずしもそれを皆が皆するものではない。巣作りをせずに急に発情期を迎えるオメガもいれば、発情期の数日前から一生涯を約束したアルファの匂いを求めて持ち物を集める行動をする、所謂巣作りをするオメガもいる。
シンジは後者のようで、月に一度発情期の前に俺の衣類を自分の周りに集める。
大体月の終わり辺りってことは把握しているものの、シンジの巣作りは分かりにくい。俺のハンカチ一枚握り締めて巣作り完了とすることもあるからほぼ巣作りをしない部類とも言えるのだ。
「子作りは……しないから」
そう言うと、またゴソゴソ動いて布団の中へ潜っていった。
「……そっかあ」
シンジが子作りしたがらない理由は分かっている。
営業部長、という肩書きだ。
「体が辛くならないうちにちゃんと薬飲めよ」
頭を撫でると、また半分顔を出して気持ち良さそうに目を閉じた。
今日はジャケットは諦めよう。
「ケイタが失敗したら、僕が責任持つし?」
ふふ、と柔らかく笑う彼と軽く唇を合わせる。
「くっそ、腹立つ」
そうは言うものの、アルファ層が大半を占める世界で堂々としているシンジを俺は誇りに思っている。そしてどうしようもなく愛しいのだ。
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