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第2話
朝から走り回って、昼も食べずに気がつけば15時。でもその甲斐あって手応えはあった。新規ユーザー獲得に貢献できそうだ。
(シンジ、じゃなかった、部長に早速報告…)
休憩と食事を兼ねて何か買おうと会社が入っているビル1階のコンビニに入る。
「……あれ?」
何故か、シンジの元に直ぐ向かわなくては行けない気がした。
(呼ばれてる?)
番になるとたまにこういうことがある。上手く言葉では言えないけれど、心に呼びかけられている感じ。
(しかもなんだか嫌な予感)
悪い予感程よく当たる。
手に取っていたおにぎりを棚に戻して小走りでエレベーターへ駆け寄るとボタンを何度も押した。
(まだ来ねえのかよ!)
胸がドキドキと煩い。咄嗟に携帯を取り出して鳴らしてみるものの、出る様子がない。
チ、と思わず舌を鳴らして携帯を離し再度耳に当てる。ワンコールで電話を取る、うちの事務は優秀だ。
「あ、もしもし。部長、いるかな?」
『あれ、さっきまでいらっしゃったんですけど…』
アイツ……!
絶対、薬飲み忘れたな!!
素早くエレベーターに乗り込んで階数ボタンを連打する。行先はオフィス横の休憩室。間違いない。
番になってから迎える発情期は、その以前と比べて格段に濃くなる。それは本能的に子作りをしようと促すからだと言われている。シンジのように子作りに消極的な人間は薬でそれを抑えるのだけれど、定期的に飲んでおかないと効果が薄れるのだ。
休憩室へ近づけば近づく程、匂いは濃くなってきて疑惑は確信に変わった。開け放たれている扉から中をそっと覗く。
「シンジ?大丈夫か?」
ソファーに丸くなって横になっている彼と思われる塊に声を掛ける。
「……ごめん、ケイタ」
ぶわ、と甘い香りが部屋に立ち篭っている。振り返ったシンジに俺は息を飲んだ。
(ヤバイかも、これ)
「あの、ね……一応、自分で抜いてみたんだけど、も、だめ、……かも。我慢、出来な……い、かも」
色素の薄い瞳は潤んで、汗ばんだ長めの前髪が赤く染まった顔に張り付いている。暫く薬で抑えていたから、シンジのこんな発情期姿を見るのも久しぶりだ。
「自分でやったんだ」
自分でも驚くくらいの低い声が出た。ビクリと体を震わせるシンジが怯えているのには気づいている。
「そんな姿で、仕事してたわけ……?」
「ちが、」
ソファーの横に座って彼に顔を近づける。
「フェロモン垂れ流して、他の男。誘ってたんじゃないの?」
今、絶対に俺は意地の悪い顔を向けている。
「そんなこと……っ!」
フェロモンを抑えていないということは。俺にも間違いなく影響があるということをコイツは分かっていないのだろうか。
「じゃあ証明してよ」
彼の後頭部の髪を強めに掴み、顔を無理矢理上に向かせて耳元で囁いた。
「いった……!」
こんな真似、したいわけじゃない。
でもどうにも止められなくて。
怖がるシンジをめちゃくちゃにしたくて堪らない。
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