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第19話
「今はよく分からないけど、……好きでした」
「優しくしてくれたから?甘やかしてくれたから?」
そう言われると、何も言えなくなってしまう。
本当に自分は誠のことを心から好きでいたのだろうか。
稔の言う通り、優しさに絆されていただけなのだろうか。
「オレだったら、好きな子を他の輩に抱かせるなんて絶対しないけどな。大切な子に傷をつけるような真似、したくないし、汚したくないし、汚されたくない。泣かせるなんて以ての外。もし泣いてたらすぐに行って、抱きしめて。……不安になんて絶対にさせない」
なんだか誠とは正反対だな、と、みなみは苦笑した。
「先輩に愛される人は、きっと幸せでしょうね」
「そうかな」
「そうに決まってます」
「だったら、」
そう言うや否や、みなみの肩に手が回ってきて、抱き寄せられた。
稔の体温を感じる。
クーラーで冷えた部屋だからか、温もりが際立って、安心感が押し寄せた。
同時に、突然の事態に頭がついていかず、心拍数だけが上昇した。
「みなみには、幸せになってほしいかな」
胸板に吸い寄せられ、だけど、稔を見上げることができなくて。
心臓の音がやけに煩い。
「それって、どういう意味、ですか?」
「どういう意味、なんだろうね」
ふふ、と稔はぼやかして、だけどみなみを離そうとはしない。むしろ、逃がさないようにぎゅ、と抱きしめてくる。
「オレは君の友達の意見に賛成だな。みなみには、誠とは縁を切ってもらいたい」
そしてさ、と稔は続けた。
「オレのところにおいで。いっぱい愛してあげるから」
「えっ……」
いつからだろう。
そんな素振り、全く見せなかったから、全然気付きもしなかった。
いつからみなみは、稔に愛されていたのだろう。
「返事は要らないよ、オレの気持ちを一方的に伝えてるだけだから。ただ、誠と別れても、一人じゃないよって、言いたかっただけなんだ。オレがいるから、寂しくないよ。」
「……」
「だから、安心して縁を切っておいで」
顔が熱い。突然の告白に、動揺を隠せなくて、顔を上げれなくて。
優しくて格好いい素敵な先輩、としか思っていなかったから、稔のことを好きかどうかまでは分からない。
だから、返事は要らない、と言ってくれたことが有り難かった。
「オレ、汚いですよ」
夜な夜な知らない男たちに乱暴され続け、どのくらいの人数と関係を持ったのかなんて分からない。
そんなみなみの体が綺麗であるはずがないし、そんな体を良いと言ってくれる人がいるなんて思えない。
「うん、そうかもしれない。でも大丈夫。オレが沢山愛してあげるし、オレのことしか考えられなくしてあげる。だから安心して。上書きしてあげるから」
ね、と稔は頭を優しく撫でてくれた。
そんなことを言われて、昨日の稔との情事を思い出し、じわり、と体が反応してしまった。
稔の愛撫は優しかった。その行為全てに愛情を感じた。
稔に愛される誰かを疎ましく思ってしまうくらいには、稔の行為を受けることは幸せだった。
優しさに絆されているだけかもしれない。
その優しさに甘えているだけかもしれない。
誠の優しさとはまた違う、温かみのある優しさに、みなみは戸惑い、困惑した。
「荷物……」
「ああ、取りに行かないとね。で、お別れ言わないとね」
家出した日、誠に救われたのは確かだ。
それは事実だ。感謝もしている。
「お別れ……そう、ですね」
好きだったという気持ちも嘘ではなかったと思う。
好きだったから、何をされても許せた。
疑問を抱かなかった。それが間違いだということに、気付かなくて。
「講義が終わったら、行ってきます」
誠との「恋」は、もう終わりにしなければ。
間違いだらけのこの恋は、終わらせなければならない。
恋だったのかも今となってはよく分からないけれど。
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