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プロローグ

〈……来世で、また会おうな〉 その言葉を最後に、夢はそこで終わる。 夕焼けの中で、どこか楽しそうに戦う、大蛇と男。 世界を飲み込むような大蛇に、がたいの良い男が、大きなハンマーを持って向かっていく。 そして大蛇の体勢を崩し、ハンマーを剣に持ち変え、深い傷を負わせる。 それで大蛇は倒せるだろうに、この男はとどめを刺そうと、さらに突っ込んで行く。 己の死を覚悟して…… いや、むしろ大蛇と共に死ぬ事を望んで。 そして、猛毒である大蛇の血を浴びた男が、笑って大蛇に言うのだ。 〈……来世で、また会おうな〉 この不思議と懐かしい夢を見始めて、もう何ヶ月になるだろうか? ベッドから出た徹は、んッと体を伸ばして、あくびをした。 ちゃっちゃと制服を着て、適当に寝癖を直してから朝食、そして学校へ行く。 今日は剣道部のミーティングがあるから、いつもより早く家を出た。 いたって普通の男子高校生である。 学校へ行けば友達がいて、先生がいて――。 真っ直ぐ前を見れば、白い髪の男子がいる。 「お、神野じゃん」 少し前を歩くのは、徹の一番のライバル。 アルビノと呼ばれる白い髪は、遠くからでもすぐに分かって、徹はすぐに走り出した。 「おっはよう、神野」 「おはよう」 神野世流(カミノヨル)。 剣道部で一二を争い、切磋琢磨する仲だ。 スラッとした長身で、少しつり目の整った顔立ちが、世流を知的に見せる。 白い髪に、アルビノ特有の赤い目は、女子達にウサギを連想させるらしい。 しかしその性格は…… 「まったくお前は、部活がある時だけ、早起きできるんだな」 「ほっとけ!」 性格はいささか悪い。 なぜか徹限定で、遠慮のない毒舌を吐く。 きっと前世は毒蛇だな。 「今日こそは俺が勝つからな!」 「ほぉ、やれるものならやってみろ。俺はいつでも受けて立つぞ、徹」 なぜか世流は、初めて会った時から徹の事を呼び捨てにする。 そう言えば、今朝の不思議な夢を初めて見たのは、世流と出会ってからだ。 それが偶然かどうかは、よく分からないが…… 〈……来世で、また会おうな〉 「どうした? 徹」 世流に呼ばれて、徹はハッと我に返った。 今、どうして今朝の夢を思い出したんだろう? 世流が心配そうに、徹の顔を覗き込む。 「具合でも悪いのか?」 「な、なんでもねぇよ。それより、早く学校に行こうぜ」 朝の夢を振り切るように、徹はまだ早い通学路を走り出した。 その背中を、世流は切ない顔で見詰めていた。   ☆   ★   ☆

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