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第2話 天使、文化の違いを知る
「レオさん、お願い」
バスチェアーに腰を掛けたガブリエルはレオを見上げた。所々毛が剃られたそこにはまばらにブロンドの陰毛が残っている。その下に柔らかそうに生えている性器は自分のモノより小さくて触り心地が良さそうだとレオは思った。
「剃刀は?」
「はい、どうぞ」
「シェービングクリームは?」
「しぇーびんぐくりぃむ?」
「何もなしで剃ったのか?」
「ん?」
小首を抱える少年の髪が揺れる。何もつけずに剃刀で剃ったから上手くいかなかったのだろう。ガブリエルは下調べもせずに、同級生が「剃刀で剃るんだよ」と教えてくれたからその通りのまま剃ったのだ。
「これをな、ここにつけるんだ」
「んっ冷たい!」
ここまで来てしまったら後戻りできないなとレオは思い、床に膝をつくとガブリエルの腹部にクリームを載せた。
「自分で塗れるか?」
「レオさんにやってもらいたい」
「……っ」
無自覚に煽ってくる天使に言葉を失ったままレオは指を動かした。色白の肌はきめ細かく傷知らずだ。我慢の限界が来る前にさっさと終わらせて自室に戻りたいとレオは己を急かした。
ホームステイに来ている学生で未成年であるガブリエルに手を出していいはずはない。いや、はっきり言って天使の年齢が人間の年齢と同じようなものなのかは分からないが、見た目から言って未成年なのではないかと思う。大人になり切れていない細身の体を貫き甘く啼かせたいという衝動は頭の隅に押しやらなくてはいけないのだ。
「ふふっ、くすぐったい」
「動くなよ、切れたら痛いからな」
「うん、んっ、レオさんの指きもちぃ」
ガブリエルは自分より大きな指が肌に這う感触を楽しんでいた。くすぐったいのにどこか気持ち良い。腰がしびれるような甘い感覚に夢中になってしまいそうだ。
「天使も、ここに毛が生えるんだな」
「ふふ、そうみたい。ほとんど人間と同じなんですよね、僕たちって」
心を無にしたレオは剃り残されたガブリエルの陰毛に剃刀を這わせた。
「自分でこれを持っていてくれないか?」
「なんで?」
「間違って剃刀があたったら痛いだろ?」
「それならレオさんが持ってて」
ガブリエルはほほ笑むとレオの手を己の性器にのせた。自分で支えることだってできたけれど、剃っているのはレオだ。それならレオが手に取っていたほうが避けやすいだろうと思ったのだ。
何を言ってるんだ、とレオは思った。他人に性器を持てと言う人間など、どこにいるだろう。いや、これはそういう関係でそういうことをやっている最中なら言っていいセリフだろう。だがしかし、今、レオは情事中でもなく、目の前にいるのは人間でもなければレオの恋人でもないのだ。
「レオさん?」
「ああ、悪い、考え事だ」
ガブリエルにとってこれは普通のことなのだろうか。恋人以外にも簡単に性器に触れていいよと言ってしまうような子なのか……はたまたこれは文化の違いなのか……理解しづらい状況にレオは「心を無にしろ」と再度念じ、剃刀に視線を向けることに集中した。
「ぁ…んっ」
自分のデリケートな部分に触れるレオの指、そして肌を滑る剃刀の感覚にガブリエルは今まで感じたことのないような不思議な気持ちでいっぱいになっていた。腹の底がむずがゆくなるような感覚だ。なぜか理解できないが己の性器がわずかに硬さを帯びだした。
「ガブリエル……お前、感じてるのか?」
「え?」
「俺が触ってるから硬くなったのか?」
「分からないけど、変なの。お腹があったかくてここがぐって硬くなってきた気がする」
「ああ、見てみろ」
レオの目線を辿り、自分の下半身に目をやるといつもはくたりとしているソレが頭をもたげ始めていた。「欲情」だ、とガブリエルは思った。人間界では起こることだと教科書で読んだことがある。人間の姿をしているからか、自分にもそれが起きているのだろう。
「どうしよう、治るかなぁ」
「え?」
「だってずっとこのままじゃ、おしっこするとき大変なことになっちゃうし、パンツが履けなくなっちゃう」
本気で心配をしているのだろう。レオは悲しそうに眉間にしわを寄せ下唇を噛むガブリエルに言葉を失った。この子は、これまでに勃起を経験したことがないのだろうか。それとも、天国にいる天使には起こらないことなのだろうか。
「心配するな、そのうち治る」
射精すれば収まるだろうが、レオにはそんなことは言えなかった。とにかく、さっさと剃毛を終わらせて自室に戻りたい。この不思議な拷問のような空間から逃げ出したい。我慢の限界は刻々とレオに迫ってきていたのだ。
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