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side 悠 入店して予約していた個室に入り、あの日と同じ位置に座る。 自分で予約しといて何だが、これはなかなかに恥ずかしいものがあったかもしれない…と入室してから感じる。 ここは蒼牙と想いを確かめあった場所。 そして初めてキスをした場所でもある。 まだあの頃は『秋山くん』って呼んでいたな。 蒼牙の気持ちが知りたくて、俺からキスを仕掛けた。 『もう一回、良いですか?』 と返された口付けは、一回どころか確かめるように何度も繰り返された。 あの日蒼牙と気持ちが通じ合い…それから色々なことを経て、二人で生きている。 アイツへの想いは褪せるどころか毎日更新されていて、自分でも可笑しく感じるほどだ。 室内をグルリと見回し、心を落ち着かせようと大きく息を吐く。 先に到着して良かった。 鏡を見なくても今自分の顔が赤らんでいることが分かる。 蒼牙はここに来てどんな反応を見せてくれるだろうか。 俺と同じように…いや、それ以上に顔を赤く染めるんじゃないか。 その姿を想像して笑いが溢れた。 気持ちが落ち着き顔の熱も引いた頃。 「失礼します」と店員の声が掛かり、戸が開かれた。 開かれた戸の向こうには、予想通り顔を赤く染めて口元を押さえている恋人の姿。 店員が去ってからも入口で固まっている蒼牙が可笑しい。 「寒かっただろ、早く上がれよ」 「はい」 俺に見られまいとしているのか、顔を隠すようにして座敷に上がってくるのが可愛くて、ついつい口元が綻んでしまう。 その顔が見たかったんだよな。 寒かったからという理由だけではない、明らかに染まった頬と耳。 うん、満足だ。 蒼牙の反応から、ここを思い出の場所として意識していたのが俺だけではないことが分かり、思っていたよりも満たされた気持ちになる。 「急に悪いな。明日はお互い休みだし、たまには良いかと思って…って、蒼牙?」 「……………」 ハンガーを壁に掛け振り向けば、蒼牙が顔を覆ってその場に蹲っていて。 どうしたのかと一歩近づいたところで、伸びてきた手に腕を掴まれた。 「うわ!」 そのまグイッと引っ張られバランスを崩せば、広い胸に抱きとめられる。 「びっくりした。急になに…ん、」 驚きに顔を上げれば、眼の前に蒼い瞳。 次いで唇に柔らかい感触。 チュ… 軽く触れ合わせただけで離れていった唇が、ゆっくりと弧を描く。 「悠さん…『感想は?イヤじゃなかったですか?』」 見惚れるほど綺麗な微笑みを浮かべながら紡がれる言葉。 それはあの日、この場所で、俺が蒼牙に向けたセリフそのままで。 俺だけじゃないんだな。 そんなことまで覚えているのは。 喜びに自然と微笑めば、蒼牙の瞳が僅かに大きくなった。 「ああ。『柔らかいな』」 蒼牙の唇に指を這わせながらそう返せば、照れたような表情に変わる。 その表情に胸が締め付けられた。 ほんとに、何でこんなにカッコよくて可愛いかな… 唇に触れていた手が蒼牙の大きな掌に捕らわれる。 同時に腰に回されていた腕に力が籠もった。 「『もう一回、良いですか?』」 俺の指先に口づけながらそう言う蒼牙に、クスッと笑いが溢れる。 「もちろん」 深く蒼い瞳を見つめながら、今度は俺から口付けた。

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