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side 蒼牙
「ここって…」
送られてきた店を検索して、その覚えのある店名に口元が綻ぶ。
そういえば、あの日以来行ってなかったな。
繁華街までの道のり、寒さに首を竦める人々に紛れて歩を進める。
思い出の場所となった居酒屋はここからならそれ程遠くない。
あの日は悠さんに連れられて向かったが、今日は一人で歩く。
きっと俺より先に到着しているであろうあの人が、あの店でいったいどんな表情で俺を待ってくれているのだろう。
それを想像するだけで思わずニヤけてしまう。
ダメだダメだ、平常心…平常心。
こんな人通りの多い場所で、一人ニマニマしてたら怪しい人じゃないか。
コホン…と軽く咳払いをし、浮つく気持ちを落ち着かせる。
それでも早く悠さんに会いたい気持ちから、自然と歩く速度は速まっていた。
「いらっしゃいませ!」
店の入口を開けると、元気な挨拶と笑顔に迎えられた。
ガヤガヤと賑やかな店内。
少し声を大きくして名前を告げれば「お連れ様がお待ちです!」と、店員が席へと案内してくれる。
「こちらです。」
「この部屋…」
案内された個室は、あの日と同じ部屋。
まさか部屋まで同じとは思っていなかった。
それまで平常心を保とうと抑えていたのに、一気に顔に熱が集まる。
店員さんが「失礼します」と扉を開いてくれるだけでドキッと心臓が跳ねてしまう。
「きたきた。」
扉の向こう、笑いながら悠さんが片手を上げて迎えてくれる。
「寒かっただろ。早く上がれよ。」
「はい。」
心臓がドキドキと煩い。
熱の集まった顔を隠すように靴と上着を脱げば、「貸せよ、掛けるから」と手を差し出された。
「ありがとうございます。」
「ん。あ、蒼牙」
「はい?」
ハンガーに俺の上着を掛けながら名前を呼ぶ。
「おかえり、お疲れ様」
そう言って綺麗に微笑む悠さんに、また心臓が跳ねた。
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