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帰国

Side蒼牙 それは突然の報告だった。 多忙を極めたGWが終わり、春から初夏へと移り変わった5月の下旬。 休日に悠さんを腕に閉じ込め、まったりと寛ぐ至福の時間を過ごしていた俺の耳に届いたセリフに、思わず固まった。 「…もう一度お願いします。」 「だから、両親が日本に帰ってくるらしい。」 首を捻りそう報告する悠さんの手にはスマホが握られていて、映し出された画面には短いやり取りが残っていた。 悠さんの両親は仕事で海外に行っていて、日本には滅多に帰ってこないというのは聞いていたけれど。 思いがけない報告に動揺してしまい、思考が一瞬停止した。 「ちょっと待ってください。心の準備するので」 「急だけど来月だってさ」 「俺の心の準備!」 言葉を被せられ思わず叫べば、悠さんはクスクスとおかしそうに笑った。 「何を準備する必要があるんだよ、メールの報告ぐらいで」 そう言って俺の腕から抜け出ると、スマホを机に置き向き合うようにして座られる。 なんとなく喪失感を抱きながらも俺も姿勢を正すと、悠さんはますますおかしそうに笑った。 「なんで正座」 「いや、何となく。来月にご両親が戻って来られるんですね。…で、メール他には何と?」 ゆっくりと問えば、もう一度メールを確認しながら悠さんが続ける。 「…久しぶりに帰るから、家族揃っての食事会開きたいんだと。店探すように頼まれた。」 「なるほど」 そこまで聞いて、自分のシフトをフル回転で思い出す。 悠さんのことだから、恐らく俺の店を予約してくれようとするだろう。 その時には完璧な状態でもてなしたい。 俺が休みならシフト変更もしないと… 「来月のいつになりますか?早めに教えてもらえると俺もシフト入れますから」 「あ、お前の店には行かないからな?」 「え?」 ローテーション表を確認しようとしてスマホを開きかけた指が止まる。 本日二度目の被せられた言葉に瞬きすれば、悠さんはニッと口の端を上げた。 「『家族』揃っての食事会って言っただろ。お前、『従業員』として俺の両親と会うつもりなのか?」 「……………!!」 呆れたようにも試しているようにも聞こえるそのセリフを反芻して、一気に顔が熱くなった。 「もうお前のことは話してるけど、会うのは初めてだからな。蒼牙が嫌じゃなければ一緒に行って欲しい。」 「嫌なわけないです!」 咄嗟に悠さんの腕を掴み身を乗り出して伝える。 俺の言動に一瞬呆気にとられた表情を見せた後、悠さんは嬉しそうに破顔した。 「ん、良かった。じゃあお前の休みの日教えてくれ。俺が合わせるから。」 「はい…!」 『家族』…一生連れ添うつもりでいてくれるのだと言われたことが嬉しくて、つい顔がニヤけてしまう。 悠さんもクスクスと笑っていて「シッポが見えるな」と細められるその瞳が優しくて… 込み上げる愛しさのままに、目の前の体を抱きしめた。

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