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第10話

「……は……ッ」  入った。  久々だったが、綾斗は狭い穴を押し広げられながらも、ずぶりと九条を飲み込んだ。 「…………く……ッ」  九条が小さく息を発する。  S.Kujoが、僕の、中に。  ぞくぞくっと全身が震える。アルファを迎え入れて、体が狂喜していた。  自分の中を、埋められる。それはこんなに、よかっただろうか。  うれ、しい。  潤んだ目で視線を落とす。そこには、目元を歪めた九条の顔があった。  ……。  なんだか、苦しそうだ。  セックスがよくないという、マッチングで下され続けた評価が脳裏をよぎる。 「あ……だ、大丈夫……ですか……?」  薄目を開けた九条は、ネクタイのノットに指をかけて引き下げながら、唇を震わせた。 「……よすぎて……大丈夫じゃない……っ」  ずくんっ。  中が、疼く。  はしたない分泌液が、後から後からあふれ出てくる。  なんてことを言うのだろう。  九条さんが、感じてる。僕の中で。  嬉しい。  嬉しすぎて、体がぎゅう、ぎゅううと、九条を締めつける。 「ちょ……待……ッ!」  制御なんてできるはずない。今まで生きてて、こんな嬉しいこと、なかった。 「ちゃんと……いいですか? 今まで九条さんがしてきたのと、同じぐらい?」  九条の眉が、困ったようにハの字になる。 「わ……からない……したことがないんだ……一度も……っ」  その言葉に、目を瞠る。  つまり……童貞ってこと、ですか?  アルファで二十七で童貞というのは、珍しいというか、聞いたことがない。  慎重とか奥手とか、そういう問題ではない。  三種類のバースの中でもっとも優秀とされるアルファの力の源が性欲であることは、誰でも知っていることだ。  社会的に成功しているアルファには、大抵つがいが存在する。生涯愛せる相手に出会う時期が早ければ早いほど成功しやすいと言われているし、それどころか、セックスをしないとアルファは病気になりやすいとさえ言われている。それほどアルファにとって、性欲を満たすことは基本かつ重要事項なのだ。  つまり、アルファがこの年で童貞というのは、どこかおかしい。  ――のだが、綾斗はぐわっと燃え上がった。  中学の時に噛まれて捨てられて、マッチングで振られまくり、自分はオメガとして不遇だと思っていた。  否。  否である。  自分はこのために、この瞬間のために、オメガとして生まれてきたのだ。  もう歓喜のままに、綾斗は動いていた。  体が急速にマッチングでの勘を取り戻していく。いや、当時よりももっとなめらかに、淫らに、腰をグラインドさせる。その激しい動きに合わせてネクタイが揺れ、綾斗もノットを引き下げた。 「あ……ぁ……ッ」  九条の手が、何かつかもうと床をさまよい、手に当たったサーバーラックのキャスターをつかむ。  そんなものでも、藁にもすがるようにつかもうとする九条の物慣れなさに、もう胸がずきゅんときた。 「かわいい……」 「……ぇ……?」  アルファに対して、普通は使われることのない形容詞だが、それが一番しっくりくる。自分だって余裕なんかないけど、九条も必死で、それがわかって、胸が詰まっていっぱいで、もっと九条を締めつける。  中で九条がこすれて、ぐぐっと一回り大きくなる。まるでレモン搾りにかけられたように綾斗のそこは愛液を搾り出され、ぬめりを帯びた九条をますます深く飲み込んだ。 「……すご……まだおっきくなって……っ」 「言う、な……っ」  九条の息が、荒くなっていく。  中で新たな変化が起きる。九条の根元が瘤状に膨らみ、抜けないよう固定される。アルファの男がラットを起こした時だけに現れる亀頭球だ。これで、中に出すまで結合は解除されない。  九条の顔はもう真っ赤で、さっきよりもっともっと苦しそうで、綾斗の胸はきゅんきゅんだった。目が合うと、九条は恥ずかしげに目をそらした。 「……み、見るな……っ」  腕で顔を隠す。そんなことをされるともうたまらず、きゅううと締めつけた。 「…………く……うぅ!!」  限界までこらえた、だからこそ壮絶に色っぽい声で、目の前のアルファは達した。  中で、熱い飛沫が弾ける。  その熱が突き抜けるように体を駆け巡り、気づいたら、綾斗も極みに達していた。  中では、アルファの長い吐精がびゅく、びゅくっと続いている。アルファの精で体中が満たされていく。  味わったこともないほどの至福の時の中で、九条を見下ろす。  達した後の、けだるい表情。  九条はもう目をそらす気力もなく、呆然とこちらを見ている。半開きになった口の端からは透明な唾液が伝っていた。  好き。  もう、それしか思い浮かばなかった。  九条さんが好き。好きすぎて死にそう。  恋愛なんて、自分とはもう無関係なものだと思っていたのに。  九条に出会って、たった一日で、綾斗は恋に落ちていた。

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