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第9話
「……ッ」
カシャン、カシャン、と松葉杖が床に転がる。足に負担がかかる体勢で押し倒したのだろう、九条の顔が痛みでわずかにひきつる。
そんな顔が、ひどくそそった。
九条の上に陣取ったまま、ぐりっと、自分の張り詰めた股間を九条に押しつける。九条のそこも硬くなっていた。
「……」
こちらを見上げてくる視線が、欲情を帯びている。もう九条もラットを起こしていた。
互いに発情していても、まだ戸惑いと気恥ずかしさは残っていた。
全身の血が沸き立つような興奮が体の中を駆け巡っていても、どう九条に触れていいかわからない。だってこの人は、僕の神様で、あのS.Kujoで……っ。
その時、ふっと九条の口元が緩んだ。ラットを起こしているのだから、余裕なんかないはずなのに。
「……君のお気に入りの俳優に似ていてよかった。好きな名前を呼んでくれていいぞ?」
場を和ませようとしてくれているのがわかり、胸に熱いものが込み上げた。なんて優しい人なのだろう。その名前にもう、万感の思いを込めた。
「九条さん」
「……いや、そっちじゃない」
「重春さん」
一拍置いた後、目の前の顔が、みるみる赤くなっていく。
自分が名前を呼んだだけで、九条が反応するのが綾斗の方こそ驚きで、全身の産毛がそそけ立った。何これ、嬉しすぎる。
「いや、私じゃなくて、俳優……」
その顔を挟む形で床に両手をつき、もう躊躇なく、九条の開きかけた唇に口づけた。
触れた唇は乾いていて、かさついていた。それは状態としてはよくないのだろうけど、大人の男の唇という感じがして、どきどきした。
「…………」
唇を押しつけられたまま、九条は固まっていた。顔は見えないが戸惑いは伝わってくる。意外とうぶなのだろうか。次は舌を入れようとするが、唇は閉じている。
開けて。
そう伝えようと、その唇を舌でぺろぺろ舐めた。
「き、君……っ」
開いた。
「キスとか、別にそんな段階を踏まな……」
すかさず舌を潜り込ませた。
九条の口の中は熱かった。S.Kujoの中に自分の一部を入れている。そう思うともう興奮して、頭の中が自分の心臓の音でいっぱいになった。
九条の舌を舐めて、絡めて、すすって。ついでに、ごりごりと股間をこすりつけた。めちゃくちゃ気持ちいい。九条さん、すごい硬い。
「……っ!!」
九条の手が伸びてきて、顔をつかまれ、引き離される。唇が離れると、ぷはっと九条は息を吐いた。
「待て! このままじゃ、出るだろ!?」
「あ、だ、出してくれて、全然……」
「いやっ、そうじゃなく!! 君っ、目的を忘れてないか? な、中に出さないと、ヒートを鎮める効果はないだろ?」
言われて、はたと気づく。
それもそうだ。
ということは、これから九条と、本当に……。
「……挿れて、いいんですか……?」
「そっ、そのためにここに来たんだ……!!」
綾斗の下で、もう九条は顔を真っ赤にしていた。
「だっ、だから、そんな、あ、愛撫とかいいから、もっと即物的にしてくれれば……っ」
――もっと即物的にしてくれ、って。
そんな、言われたこともないような殺し文句に、綾斗はもうぎんぎんにたぎった。これまで経験したことのない新境地であった。
即座にズボンも下着も脱ぎ捨て、綾斗は下半身裸になった。そして九条のズボンと下着も脱がしにかかったが、左足にギプスを巻いているため、途中までずらしただけでよしとした。
こうして九条の要望通り、余計なことはすべて省き、上はネクタイすら締めたままなのに、下だけ脱いだ状態で、再び九条にまたがった。九条は動けないので、綾斗が騎乗位ということになる。
マッチングの成果として騎乗位は得意だった。どきどきしながら九条のものをつかむ。それは綾斗のサイズとは比べものにならないほど立派で、その生々しい熱を手に感じるだけで、後ろの奥まった窄まりからとろとろと愛液が滴る。男オメガ特有の反応だ。
「……早く……してくれ……っ」
声を震わせて恥じ入る九条にさらにクるものを感じながら、その怒張に腰を落とした。
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