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第1話
サムが隠れ家用の山小屋に着いた時、空気が凍っているのを感じた。
すわ悪魔か!?と思って身構えたサムだが、別に気温が下がっている訳では無いし、口から息を吐いてみても白くならない。
勿論、硫黄の匂いも痕跡も無い。
だが空気はピーンと張り詰めている。
そしてベッドにふて寝をしているディーンの後ろ姿と、窓辺で外を見つめているカスティエルの横顔。
また喧嘩かな…?
サムは殊更明るく「ただいま~!ディーン、行列に並んで買って来たんだから食べてよね!ベーコンチーズバーガー!ポテトもさ、ディップも買って来たから付けて食べなよ!キャスには店イチ人気のコーヒー!今日は気分を変えるのもいいなかあってシナモンを別に買ってきたから混ぜて飲めば!?」と言った。
しーん…。
返ってきたのは、浮かれたふりをした自分が恥ずかし過ぎる程の沈黙。
サムはそれでも頑張った。
この二人が揉めると大抵カスティエルは消える。
それが消えずに、この狭い小屋で思い詰めたように窓の外を見つめているのだ。
何か重要な事で話が食い違って喧嘩に至った。
けれども話の内容が重要だから、カスティエルは消えて終わりに出来ず、ここに残ったのかもしれないからだ。
それならどちらかから話を聞き出し、解決しなくては!
サムは使命感に燃えながら、またまた殊更明るく「あれ?誰も食べないの?温かい方が美味しいのに。じゃあ俺はお先に~」と言って、これも買って来たキンキンに冷えた瓶ビールを1本開けてぐびぐび飲み、自分用のバーガーをもぐもぐ食べ出した。
そして1分もするとディーンの肩がピクリと動いた。
サムは素知らぬ顔で「美味いなあ!」を連発しながらバーガーとポテトを頬張る。
ムクッ。
ディーンが起き上がる。
そしてハーッと息を吐いて、手で顔をひと撫ですると、すっと立ち上がり大股でサムのいるテーブルに近付いてきた。
素知らぬ顔を必死で維持するサム。
するとディーンの手が伸びてきて、バーガーとポテトが入っている紙袋と瓶ビールを1本掴んだ。
「ありがとな、サミィ。
俺、ちょっと外で食ってくる。
なんつーか風に当たりたいっていうかさ」
微笑むディーン。
サムも笑顔で「いいんじゃない」と返す。
ディーンは小さくウィンクすると、そのままスタスタと小屋を出て行った。
そしてバタンと扉が閉まる音と同時にカスティエルが言った。
「ディーンは美しいな」
ブッ!!
吹き出しそうになるのを必死で堪えるサム。
ゆっくりカスティエルがサムの方を向く。
「ディーンは美しいな」
またもや同じ事を言われ、サムは何とか体勢を立て直す。
「そ、そうだね。
確かに兄貴は顔は綺麗だよ。
記憶が無い時に兄貴の姿が頭に浮かんだ時、モデルみたいだと思ったし。
あれで口がもうちょっと良くて…いやかなり改善されれば…」
何とか身振り手振りを三割増にして話を続けようとするサムに、またもやカスティエルが爆弾を落とす。
「顔が美しいのは初めて会った時から分かっている。
ディーンの口が悪いのは、時々ムッとさせられるが、後から考えればかわいらしいものだ。
魂も…何もかもか美しいと言っているんだ」
「………そうなんだ」
サムにそれ以外の何が言えただろう。
たったそれだけでも返事が出来た自分に拍手をしてやりたい。
だがサムはハッと気付いた。
キャスが口をきいてくれたって事は、キャスからディーンとの喧嘩の原因になった『重要な話の内容』を聞き出せるかも知れない!
「キャス、座ってコーヒーでも飲みなよ。
確かに兄貴は特別な人間だよね」
コクリと頷き、ゆっくりといつも通りマイペースでテーブルに向かって歩いてくるカスティエル。
カスティエルがサムの正面に座りコーヒーを一口飲むと、サムもビールを一口飲んだ。
さあ、これからだ…!
意気込みを隠し、あくまでもさり気なく「兄貴と何かあった?」と訊くサム。
またカスティエルがコクリと頷く。
再び沈黙に包まれる部屋。
無情にも過ぎ行く時間。
兄貴が戻って来る前に、キャスに『重要な話の内容』を訊かなきゃ…!
「あ、あのさあ…。
僕は空気を読む方だから…気付いちゃったから…正直に言うけど、僕が居なかった時、兄貴と何か重要な話で喧嘩したよね…?」
恐る恐る切り出すサムに、無言で眉一本動かさないカスティエル。
だがサムもめげない。
『重要な話の内容』は、狩りの事に違いないと確信しているからだ。
「僕も聞く必要性があると思うんだよね。
なんたって兄貴と一緒に狩りをする訳だし。
キャスが居てくれるのは本当に心強いけど、まず狩りの内容を僕にも教えて欲しい」
カスティエルは少し俯くと「狩りの内容じゃない」とポツリと呟いた。
「じゃあ情報?」
「情報でもない」
はて?
サムの頭にクエスチョンマークが渦巻く。
他に揉める理由があるだろうか?
その時、サムはハッと気が付いた。
狩りなんかじゃない!
兄貴といったら…
「分かった!
兄貴が無神経なこと言ったんじゃない!?
それかくだらないエロジョークを言ったとか?
それで喧嘩したんだろ?
なーんだ心配して損した~!
まあまあ許してやってよ。
そういうのひっくるめて兄貴なんだからさ。
僕も毎回イラッとさせられるけど…」
安心の余り饒舌になるサムに、カスティエルは思い詰めた視線を送る。
あれ?
違う?
思わず黙るサムにカスティエルが言った。
「ディーンとキスしてたら怒ってしまった」
ゴンッ。
椅子が倒れる。
サムが勢い良く立ち上がってしまったせいで。
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