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第1話
ディーンがゆっくりと瞳を開ける。
ぼんやりとサムの顔が見える。
「ディーン!
良かった…どこか痛く無い?
キャスはただの過労だと言ったけど、丸2日眠ってたんだよ!
心配したよ…」
サムの子犬のような瞳をうるうるさせながら、ディーンを見つめる。
ディーンはやさしく微笑むと「ありがとな、サミィ」と言って起き上がる。
「もう起きていいの!?」
「大丈夫。
それより腹減った」
「分かった!
じゃあ買い出しに行ってくる。
ディーンはベッドにいてよ!」
サムはそう言うとダッシュでディーンの部屋から出て、また戻って来た。
そしてよく冷えたスポーツドリンクをディーンに渡して「今はこれで我慢して。絶対に横になっててよ!」と言った途端、またダッシュでディーンの部屋から出て行った。
ディーンはふふっと笑うと、手の中のスポーツドリンクを一気飲みして、空のペットボトルを床に投げつけると思い切り怒鳴った。
「おい、キャス出て来い!」
ディーンの怒鳴り声が終わった途端、目の前にカスティエルが立っていた。
「…ディーン、よく眠れたみたいだな」
「ああ、お陰様でな」
ディーンが嫌味っぽく言ってベッドから出ようとするのをカスティエルが止める。
「ディーン、待て。
さっきサムと約束してただろう?
まだベッドに横になっていた方がいい」
「俺に触るな!
このエロ天使がっ!
お前は加減っつーのを知らないのかよ!?」
「君が頭が冴えて眠れないと言ったから…」
思いっきり困り顔のカスティエルに、ディーンがハーっと深いため息をついた。
ディーンとサムは一ヶ月程前から大掛かりな狩りを行っていた。
狩り仲間からの情報で、もう使われていない朽ちかけている広大な農家の納屋に、吸血鬼のある一派が50人もの人間を監禁して食料にしているという。
余程の事情が無い限り、普段のディーンとサムは他人とは組まない。
だが今回は最低に見積もっても30人以上はいる吸血鬼を相手に、50人の人間を助け出さなければならない。
そこで他のハンター三人と手を組み、五人で救出作戦を開始した。
もっとハンターの人数を増やしてもいいが、吸血鬼達にこちら側の行動を知られないようにする事と、情報漏洩を防ぐ為に少数精鋭で挑んだのだ。
そして三週間に渡り、五人は地道に情報を集め、緻密な作戦を練り、道具を揃え、戦いに備えた。
それからやっと吸血鬼を一掃する日がやってきた。
吸血鬼のネットワークに上手く入り込み、人間を監禁している吸血鬼達全員を一つの納屋に集める事に成功したのだ。
こんなチャンスはもう二度と訪れない。
五人は作戦通り事を運び、吸血鬼達と血みどろの戦いの末、50人の人間を解放し、弱っている人間には治療を受けさせ、監禁されていた人間を誰一人欠ける事無く救出出来た。
しかもその場にいた吸血鬼達も全員狩る事が出来た。
それから五人は吸血鬼達の死骸を葬りさり、祝杯を上げ、別れた。
ディーンとサムも賢人の基地に帰宅した。
二人は疲れ切っていた。
この一ヶ月間というもの、吸血鬼達に自分達の存在を知られない様に、モーテルを転々としていた上に、毎日2~3時間の睡眠時間で精神的にも体力的にもギリギリの生活だったのだ。
サムは食事を済ませシャワーを浴びて瓶ビールを一本開けると、「もう限界…寝るね」と言って自室に入り眠った。
ディーンも「俺もそうする」と言って自室に入ったが、実は全然眠くなかった。
神経が高ぶっていて頭は冴え渡り、身体の疲れも疲れているのは自覚しているが、辛さは感じない。
どうしようかとウィスキーを飲んでいると、ベッドサイドに置いてあるスマホが鳴った。
見るとカスティエルからだ。
「何だ?」
『君は前回電話をした時、今度の狩りは大掛かりだから、緊急の用事以外は一ヶ月後に電話しろと言った。
今はあの電話を切ってから744時間経ったところだ。
つまり一ヶ月後になったから電話した』
「ふ~ん。
で、何の用だ?」
『君に会いたい。
もし疲れていて、今から休息を取ると言うのなら、元気になったら連絡して欲しい』
「それが…神経が高ぶって眠れねーんだよ」
「大丈夫か?」
カスティエルがスマホを持ったままディーンの前に出現する。
ディーンは無言でスマホの通話を切る。
カスティエルも。
「ディーン…会いたかった…。
この一ヶ月は一万年にも等しい。
どんなに心配したか…」
「はいはい分かったよ。
心配ありがとさん。
それとなー毎回急に現れるのもどうかと思うぜ?
『今から行く』くらい言ってもいいんじゃねーか?」
呆れ気味のディーンにカスティエルは「なぜ?いつも通りじゃないか」と淡々と言った途端、ディーンに抱きついた。
「こらキャス!離れ…んーっ!」
ディーンの言葉はカスティエルのキスで遮られる。
カスティエルはそれこそ狂ったようにディーンの口腔を蹂躙した。
ディーンは反抗するどころか息をするのが精一杯だ。
ディーンが酸欠と快感で頭が朦朧とした頃、やっとカスティエルは唇を離した。
ディーンはカスティエルの青い瞳に確かに欲情を見る。
ディーンはふうっと息を吐くと、人差し指でカスティエルの顔の輪郭をなぞり、「来いよ」と呟いた。
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