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嫉心_拾漆

 途中で平八郎と正吉と別れ、向かう先は榊の知り合いが営む宿だ。色々と都合の良い場所であり、そこで外山が自分たちを待っているとのことだった。  その場所へと向かう間、何があったかを話すために口を開く。 「先ほどのことですが、お話をする前にひとつお尋ねしたいのですが」 「なんだ」 「榊さまは俺のことをどう思っておいでで?」  青木の言葉は信じられなかった。榊にとって自分はからかいの対象であるだけだからだ。 「なぜ、それを聞く?」 「青木様が俺と榊様が恋仲だと勘違いされてまして、まぐわえないようにとマラを切り落とせと命じられました」 「……そうか」  榊は表情を変えることなく、真っすぐに顔を向けている。  今、一体なにを考えているのだろう。  あの時のように怒ってくれたのだろうか、それともくだらないと呆れているのだろうか。  だが、その答えは将吾には知ることはできなかった。  宿につくと女将に案内され部屋へと向かう。  襖を開き、外山と目が合った瞬間、肩を力強く握りしめ、互いに無事を喜び合いう。 「磯谷、青木を」 「はっ」  担いでいたその身を畳の上へ横たえる。今だ目を覚まさぬ青木に、榊が頬を叩き起きろと声を掛け続ける。  しばらくすると青木は目を覚まし、自分達の姿に驚いたのか目を見開く。  そんな青木を、問答無用で榊が殴りつけた。 「さ、榊様!!」  驚いた将吾と外山が腰を浮かせるが、榊の勢いを止めることはできなかった。  胸倉をつかみ揺さぶりながら、 「私ではなく関係のない者を巻き込み怪我をさせた挙句に、磯谷には男として大切なものを斬り落と言ったそうだな」  と榊が睨む。 「磯谷はお主の大切な人だろう? アレを斬り落としてまでお主とまぐわう気が無いと知れたら、きっと絶望するだろうと思ってな」  怒りを含んだ目で青木を睨み、もう一度殴りかかろうとしていた榊を止めたのは将吾だった。  その表情が自棄気味なもので、わざと殴られようとしているように見えたから。 「磯谷、止めるな!」  と、腕を振り払おうとする榊に、首を横に振るい、いけませんと止める。 「そうだ止めるな。私は殴られて当然のことをしたのだから」  取り返しのつかないことをしてしまったのだからと力なく項垂れる青木に、榊は振り上げたこぶしを下げた。 「……磯谷、帰るぞ」  掴んでいた胸倉を乱暴に解き、尻もちをつくような恰好の青木から背を向けて榊は部屋を出ようとする。 「え、あ」  青木を助け起こそうとしたが、外山が目で行けと合図をくれる。  それに頷き、青木に一礼し榊の元へと行けば、 「申し訳、ございませんでした」  と聞こえて振り向けば、土下座をし深々と頭を下げる青木の姿がある。 「行くぞ」  もう一度、腕を強くを引かれる。  青木のことは気になるが後は外山に任せ、将吾は手を引かれるまま部屋を後にした。

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