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嫉心_拾玖

 手を引いたまま、榊は何処へ連れて行く気なのだろうか。  何も言わずに引かれるままについていけば、人けのない場所で止まった。  大きく息を吸って吐いた後に「すまぬ」と手が離れる。  怒りの矛先を何処へ向けたら良いのかが解らなくなってしまったのだという。 「あんな真似をした青木が許せぬ、許せぬのに!!」 「きっと幻妖のせいです。青木様も取り返しのつかないことをしてしまったことは、きちんと解っていらした」  囚われてしまったせいで自分自身を抑えることができなかったのだろうと、平八郎が言っていたから。 「お前は……」  榊は複雑な表情を浮かべて将吾を見る。危うい目にあったのにと言いたいのだろう。  だが、自分の代りに怒ってくれた上役がいるから、青木も自分の過ちに気が付いたから、もういい。 「榊様、ありがとうございました」  助けに来てくれたこと、そしてかわりに怒ってくれたことに感謝の気持ちを込めて深く頭を下げれば、榊に強く抱き寄せられた。 「無事で、良かった」  気持ちの込められたその言葉から、榊がどれだけ自分のことを心配してくれていたかが伝わってくる。  自分では気が付かなかったが気持ちが張り詰めていたのだろう。その温もりが暖かくて安堵する。 「磯谷、青木が言っていたことは本当だ」  榊の手が頬に触れる。大切な人だと思ってくれていたのか。 「え、あっ」  からかうためにではなく、好きだからしていたこと。それを知って嬉しい感じている自分がいる。  榊の唇が将吾の唇へと触れ、その優しい口づけを受け入れる様に唇を開けば、舌は入り込むことなく将吾の唇を舐めた。 「え?」  拍子抜けした。それが顔にでてしまったか、榊が目を細めて口角を上げた。 「続きは私の屋敷で」  今だ二人の顔は近く、胸が高鳴り頬が熱くなる。  この人は凄く格好いい。上役として、そして一人の男として。  (ねや)へと入るなり唇を奪われた。 「んっ」  待って欲しくて十徳を掴むがそれを無視するように舌が遠慮なしに口内を貪られる。  散々乱され唾液が流れ落ちるのもお構いなしだ。 「はぁ、さかき、様」  息が上がり蕩けた表情を浮かべる将吾を畳みの上へと組み敷いて襟を広げて肌蹴た箇所に口づけを落としはじめる榊に、待ってとその行為を止める様に手で榊の唇を塞ぐ。 「磯谷」  邪魔されたことに不機嫌な表情を見せる榊にすみませんと謝った後、自分は汚れているからと言えば渋々と身を離す。 「別に汚れていようがかまわんのにな。まぁ、共に風呂に入るのも悪くないか」  そういうと榊はいたずらっ子がするような表情を浮かべていた。 「え? 榊様」 「風呂の用意を頼んでくる」  しばし待たれよと榊が部屋を出ていく。

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