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竹富課長

4時50分を指す時計を見て、中居悠貴(なかいゆたか)は静かに笑みを漏らす。 今日は恋人のナオちゃんと付き合って1年の記念の日……だからこそ定時までに仕事を終わらせたんだ こうしてるうちにも刻んでいる幸せのカウントダウンを目を閉じて聞く悠貴。 「中居、これ明日までによろしくな」 その声の後に聞こえたのはドスンと重みのある物が置かれた音とペラッと紙の音だった。 悠貴が薄目で見ると、机上の左側に膨大な資料の束が積み重なっている。 「やってくれるよな? 中居」 資料の脇から言われた上から目線の先をぼんやり見ると、ゆるい七三分けの黒い前髪に細縁の眼鏡を掛けた竹富(たけとみ)課長がニヤリと笑っていた。 「あの、俺……」 今日、今日だけはダメなんですと続けようとした途端、竹富課長の顔が歪む。 「あ? 女とデートか……仕事ナメてんじゃねぇぞお前!」 狂犬課長と影で言われてるだけある竹富の威圧感に負け、悠貴はやりますと返事を返す。 「すいませんでした」 誠意を込めて頭を下げようと立ち上がった悠貴。 しかし、竹富はさっきとは打って変わり、優しく肩を2回叩く。 「気持ちなら受け取ったから、立つな……お前は信じてるから」 穏やかに言った竹富課長は自分の席に戻っていった。

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