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「おい、水嶋。風見に何吹き込んだんだ?」
週明けの月曜日、営業回りを終えて社内に戻った水嶋の元に勝村が少し憤った様子で声をかけてきた。
「えっ?」
呆気に取られている水嶋を勝村が人通りの少ない廊下に連れ出す。
「指輪なんかつけてきたもんだから、女性陣が騒いでるぞ。しかも結婚してないらしいじゃないか」
立ち止まるなり向き合った勝村が不機嫌そうに切り出す。まさか会社にまで付けてきたとは知らず、水嶋は唖然とした。
「なにか入れ知恵でもしたのか?風見がモテるのは分かるけど、大騒ぎになってるぞ。相手は 誰なのかって、俺にまで聞いてくる奴もいたぐらいだ」
「ご、ごめん」
「倉橋さんも結婚するから、余計にややこしくなるだろう」
頭を抱え込んでいる勝村に、とにかく平謝りして水嶋はその場を取り繕う。
風見もさすがにこの事態を予想してないはずはない。
悶々とした気持ちのまま、勝村に解放されて部署にもどる。自席に向かうと、さっきまでいなかった風見がパソコンに向かっていた。
自席につきながらちらりと視線を向けると、確かに風見の薬指には指輪が嵌っていた。
バレたらどうしようという不安と、同じ指輪をしているという幸福感。
これ以上、ことが大きくなる前に注意するべきなのか。でも自分も既婚者でもないのに指輪をしていた。人のことを言える立場ではない。
自分の中で感情がせめぎ合う。
複雑な気持ちで光る指輪を見つめた。
「水嶋さん」
顔を上げると風見と目が合う。見過ぎたと居た堪れなくなり、水嶋は慌てて視線を落とす。
「これで 同じですね」
「えっ?」
風見が戸惑う水嶋の耳元に顔を近づける。
「二人で同じ嘘をみんなについてる」
水嶋の左手の薬指に触れ、風見が囁く。
呆然とする水嶋に、風見は悪戯っぽく笑みを浮かべた。
一人の嘘が二人の嘘に変わる。
それは今までとは違う、甘やかな二人だけの嘘だった。
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