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会長が転入生とキスしたらしい

 人にはどうしようもなく好きなものがあると思う。  深い理由やエピソードなどなく心にカチッとハマるもの。  無意識のものだから説明は難しい好きなものを好きな理由。  けれども俺はこの学園に来てから頻繁に聞かれる。 「笹峰(ささみね)さまをホントに好きなの!?」  親衛隊長であるセンパイはそろそろ二桁になるほど同じ言葉を口にしている。  その自覚はあるんだろうか。  俺が何度となく「好きだから付き合ってます」と答えて納得していない。  いじめというわけではない。  同級生から気をつけるように言われた嫌がらせを俺はセンパイから一切受けていない。  それは幸運なことだろう。  全寮制の男子校に高校から参加した俺は小中と学園内で育っている彼らとは距離がある。  センパイであり会長だったこともあり[[rb:笹峰 > ささみね]][[rb:明頼 > あきより]]は俺のことを気にしてくれていた。  外部進学、内部進学で起こる派閥争いは生徒会として望むものではないし、態度がデカそうな顔に似合わず気遣いの人だったので毎日顔を合わせることに違和感はなかった。  学園生活も半年も経てば同級生たちとの距離はある程度つかめる。  会長に近づきすぎないようにと警告は数回受けたし、同級生から注意や心配はたびたびされた。  それでも告白されたので俺は彼と付き合うことにした。  以降は警告や注意や心配ではなく、ただひとつのことを繰り返し聞かれる。  笹峰明頼を本当に好きなのか、ただそれだけを尋ねられる。  好きでもない相手と付き合うわけがない。  相手は美形であっても自分よりも体格のいい男。  元々、男が好きで男に抱かれたいと思っている性癖でもないので男同士の付き合いは心理的なハードルは高い。  それでもいいと思ったからこそ付き合うことを決めたわけだけれど、笹峰明頼を含めて周囲は俺の態度が納得いかないようだ。 「俺とセンパイに別れて欲しいんですか?」 「なっ! なに言ってんの!! そんなこと言ってないだろ! 変なことすんなよ」 「付き合っているのが変で別れるのも変って、それこそ、なに言ってんだか」 「好きなら会長の浮気の噂に不安になったりしないのかって」 「本人は浮気してないって」 「信じんの!?」 「なんで信じないんですか?」 「だって会長格好いいだろ」 「格好いい人の言葉は信用ならないんですか?」 「いや、そういうことじゃないけど……」  いつも親衛隊長であるセンパイは今のままでいいのかを聞いては最後に黙りこむ。  たびたびセンパイが同じことを聞くのは納得していないからこそだ。  言い返す言葉が浮かばなくても俺の言い分を疑っている。 「なんなんだよ、お前のその自信」  センパイは吐き捨てて去っていった。  あの様子だと来週にでもまた俺の前にあらわれるかもしれない。  浮気の噂で不安になるのは噂を信じるからだ。  自分の目に見えるものを疑って噂に踊らされる意味が俺には分からない。  笹峰明頼は俺のことを好きだと言った。  付き合って欲しいと言われて始まった関係だ。  なぜ不安にならないといけないのか分からない。  中学の時に笹峰明頼と付き合っていたという相手が俺に声をかけてきたことがある。  風紀委員長と付き合っているらしい彼はなぜか笹峰明頼の悪口を言ってきた。  なにが目的なのか分からないがセンパイなので適当に受け流した。  笹峰明頼は元彼がネガティブキャンペーンをしないとならないような人間ではない。  白と黒の奇抜な髪の色をしているが背は高くひ弱な印象はない。  成績優秀、スポーツもそつなくこなすので尊敬できる生徒ランキングで名前が上がるのも分かる。  悪い噂の多くは風紀委員長に流されていると笹峰明頼は言っていた。  笹峰明頼と交際中だった相手を奪うだけでは飽き足らずネガティブキャンペーンを行う風紀委員長たちのほうが人間性を疑ってしまう。  何があったにせよ付き合っていた相手を下げるのは自分自身の価値を貶めることだ。理解できない。  合鍵をもらっているので笹峰明頼の部屋で夕飯の支度をする。  生徒会で放課後に仕事があるらしい。  部活もしていないので授業のあとは時間が余っている。  宿題や予習復習は笹峰明頼に見てもらった方がはかどる。  さすがはセンパイなので教師のテストの傾向や授業の進め方なんかを教えてくれる。  勉強だけができる馬鹿ではなく本当に頭がいい人なので分からない点を説明しなくても察してくれる。  だから俺は噂も過去のこともどうでもいいと思っていた。  いつになく遅く帰宅した笹峰明頼がひどく取り乱していて寝室に駆け込み籠った。  待っていても出てこないので一人で夕飯を食べて自分の部屋に戻ることにする。  帰り道、会長が転入生にキスしたとかそんなことが聞こえてきた。  時期的に転入生なんてめずらしいと思っていたら帰国子女らしい。  俺が会長と付き合っているのは周知の事実だったおかげで情報は簡単に集まった。  転入生は理事長の親戚筋だから扱いに注意しないといけない。  そのため生徒会長である笹峰明頼が校舎の案内をした。    複数の生徒が目撃しているので二人がキスをしたのは事実だろうが帰宅した笹峰明頼の姿から浮気という単語は想像できない。  むしろ、ショックなことが起きたような感じだ。  事故に落ち込む繊細さはあるかもしれない。  笹峰明頼は室内をモノクロで統一しているが寝室だけはなぜかパステルカラーだ。  人を通す場所はシックなインテリアにしておいて人を入れない寝室は乙女チックメルヘン。  そういう二面性が嫌いじゃない。  玄関先からリビングのモノクロ部分すらパンダに見えてくる。  美形で格好いいを連呼されている笹峰明頼だが、髪の色の白黒といいパンダだ。  初対面からずっと俺はパンダだと思っている。  パンダはああ見えて気性が荒い殺し屋だ。  笹だけ食べていると見せかけて雑食なところがある。  だから、転入生に限らず笹峰明頼が噂どおりに浮気をする人間でもパンダだから仕方ないと思える。  パンダなんて気ままで勝手なやつだ。  本当のパンダに比べれば笹峰明頼は理性的でちゃんとしている。たぶん。

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