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会長はものすごい不安らしい1-1

 俺はうわさの転入生とすぐ顔を合わせることになった。  転入生が俺の部屋にいたからだ。  同室の牧田は隣の部屋の横道と幼なじみの親友同士だ。  共同スペースに横道がいることはよくあった。  転入生である東町は横道の同室になったらしい。  横道に連れてこられた東町は俺の部屋の共同スペースにいた。  牧田、横道、東町の三人は食堂でテイクアウトしたものをテーブルに広げて食べている。  自己紹介をしたので東町が噂の転入生なのは確実だ。  純日本人の顔だが帰国子女としてスキンシップが激しくノリでキスするような気もするフレンドリーさが東町にはあった。  学園の理事長もわりと大人らしからぬ落ち着きのない人だったので血を感じる騒がしさだ。  食べるよりも話したいのか東町の食事の手は進まない。  俺はなんとなくソファに座り東町の横でコーヒーを飲んでいる。  わざわざ会長と付き合っているなんて自己紹介しないので東町は俺と自分との繋がりに気づかない。  牧田と横道は修羅場を期待してから俺を微妙な目で見る。  噂の真実を当人である東町に聞くべきか恋人である会長から聞くべき悩んでいると「会長と付き合うことにした」と東町がつぶやいた。  宣言してスッキリした顔になった東町はカツ丼を流し込むように食べてどこかへ消えた。 「なに、あれ」   俺の思わず漏れた言葉に牧田が「悪い奴ではないと思うんだけど」と首をかしげる。  牧田も東町がどこに行ったのか分からないらしい。転入したばかりだから人となりなど詳しく知らないものだろう。 「西宮に誤解させないように連れて来たんだけど……会長とのこと、噂になってるよな」 「転入生と会長がキスしたってことなら、ここに帰ってくるまでにいろんな人から聞いた」 「い、いろんな、ひと?」 「牧田も居たの、現場」  引きつった顔をする牧田と床に転がる横道。  見ようによっては横道が牧田に蹴られたように見える。 「誤解だっ、会長は浮気とかしてねえからっ」 「だろうね」  必死すぎる牧田のフォローが逆に浮気への疑いを募らせもするが今の時点では否定も肯定も出来ない。  キスした事実に対して浮気だと感じているのが俺だけで笹峰明頼や牧田が浮気だと思っていないなら話は平行線になる。  あえて討論する議題でもないので考えなくていい。 「浮気はしてない、してねーけどさぁ。西宮の会長へのその態度って何なんだ?」 「浮気をしてない相手を疑って責めろってこと?」  今日も放課後にセンパイである親衛隊長にいろいろと言われた。  それでなんとなく薄っすらとわかったのは俺の笹峰明頼への愛情が見えないということだ。  いくら好きだから付き合っていると答えても再三にわたって同じ質問をされるのは俺の言葉を信じてもらえないからだ。  好きなのかと言われるまでもなく恋人関係になった事実で好きなのが分かると思う。 「浮気を疑うことが相手を好きなことの証明になるのはおかしい」  浮気の噂に対して好きなのに平気なのかと笹峰明頼の元彼は聞いてきた。  不安にならないのかと言われた。 「何を望まれているのかよくわからない。理論が飛躍しているというか」 「西宮って変わってるって思ってたけど、証明とか理論とか……もしかしてかなり理詰めで考えるタイプ? 感覚的な話ムリ? 感受性が鈍いとかじゃなくて恋愛話がご法度?」  横道が牧田にへばりつきながら聞いてくる。  長身の横道に寄りかかられると重いのか牧田が眉を寄せる。  横道は擬音で話をするのが多いので今までの自分を反省したように困った顔をする。  俺だって何でもかんでも筋道立てて語って欲しいわけじゃない。  質問するなら質問文にないことを前提に混ぜないで欲しいだけだ。 「言葉にしないことを読みとってくれなんて無茶なことだよ。具体的に俺から何を聞きたいんだ、みんな」  溜め息を吐く俺に牧田と横道が顔を見合わせる。  おずおずと横道が「恋人がモテてると不安じゃない?」と口を開いた。  これは何回も二人以外にも聞かれたことだ。  そして俺はいつでも「不安じゃない」と同じ言葉を返している。  どうしてこれで通じないんだろう。そちらの方が俺は理解できない。  強がりでもなく心の底から不安じゃないから「不安じゃない」と言って終わる。  続く言葉なんかない。本心はきちんと教えている。 「……俺とお前たちは前提が違うかもしれない。俺は不安じゃないけどお前たちが同じ立場だと不安なのか?」 「マジで? なんで? なんで不安にならねえの」  横道が理解できないという顔をするが俺は不安になる意味が本気で分からない。  恋人になっている段階で片思いではなくなったんだから好きな相手が他人と結ばれる不安感からは解放されるはずだ。  両思いなのに相手の心変わりを想像し続けるのは精神が健康的じゃない。

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