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第4話【性癖(後編)】

 人の首元ばかりに目がいってしまい、真駒は誰かと話す時、目を見られなくなった。人の顔も憶えられず、友達も作れない。友達との楽しい思い出を、真駒は何一つ持っていないのだ。  そして、何よりも真駒を苦しめたのは……自分が犯罪じみた行為に興奮する変態だ、という事実だった。  初めは【絞めたい】という欲求しか持っていなかった真駒だったが、抑圧された欲求は更にエスカレートしていく。  絞めたい、引っ掻きたい、噛み付きたい……できることなら、切り刻みたい。人体で最も美しいと感じる首を、いつの日からか……真駒は、破壊したい衝動に駆られるようになった。  それは社会人となった今でも、真駒の心を苛み続けている。  殺害の意図は無いにしても、人の首を絞めるという行為は、最低でも殺人未遂……真駒は、生まれながらに犯罪者予備軍なのだ。  そこを踏まえ、人としての道を踏み外さない為に、決して満たされることは無いと分かっていながら……真駒は自身の首を、掻きむしる。  俯きながら生活し、一瞬でも綺麗な首を視界に入れたものなら、自身の首を掻き、衝動を鎮める……そうすることでしか、真駒は生きていけなかった。  決して癒えない傷を生み出し続け、無差別にも見える真駒だったが……運命の出会いというものを、経験してしまう。  その相手こそ……同じ会社、同じ課の課長職を務めている、椎葉依弦だった。  椎葉の首は、真駒が見てきた首の中で……特に、真駒好みの造形をしている。  細くはないけれど、決して太くもない、絶妙なサイズ。中間にある突起……喉仏の形すらも、真駒好み。肌の色、長さ、仕事の合間にコーヒーを嚥下する動きすらも……真駒の情欲を掻き立てた。  何度、椎葉の首を絞める妄想で自慰行為をしたか……憶えていない程、真駒は椎葉の首を愛しているのだ。  決して口にはできない想いを抱きながら、真駒はこの日も業務を終える。  ――筈、だった。

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