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第9話【同等(前編)】
真駒の意思とは関係無く、朝はやってくる。
真駒の手には、スマートホンが握られていた。画面に表示されているのは、椎葉の連絡先だ。
(体調不良……じゃ、嘘っぽいかな。どうしよう……)
何と言って休もうか……真駒は昨日の夜、下半身の熱を治めてからずっと、同じことを考えていた。
休むという連絡をする前に、謝罪をしなくてはならない。けれど、どう謝罪をしたらいいのかが……真駒には分からなかった。
暫く画面を眺めていたが、流石にそろそろ腹をくくろうと思った真駒は、通話の画面を開こうと指を動かす。
――その時だった。
インターホンの軽快な音が、部屋に響き渡ったのは。
(客……?)
こんな朝早くから、いったい誰が訪ねてきたのか……身に覚えのない来訪者に、真駒は眉を寄せる。
玄関に近付き、ひとまず扉を開けた真駒は……予想外の人物を目撃した。
「真駒君、おはよう」
扉の向こうにいたのは、椎葉だ。
椎葉はいつもと変わらない、優しい笑みを浮かべて立っている。けれど、真駒は椎葉の表情なんて気にも留めない。
――気にすべきなのは、椎葉の首元だ。
(痕、残ってない……っ?)
椎葉の首には、昨晩ハッキリと残っていた真駒の指の痕が、消えていた。
安堵するのも束の間、真駒は慌てて扉を閉めようとする。
――が、椎葉の方が先手を打った。
「待って」
扉に足を掛け、閉められないよう邪魔をする。真駒は再度息を呑み、力一杯俯いた。
「中に入れてくれないかな?」
「俺、昨日――」
「真駒君」
真駒の言葉を遮り、椎葉が名前を呼ぶ。
――その声は、どこまでも冷たい。
「中に、入れてくれるよね?」
普段は温和な椎葉の、冷淡な声……真駒は思わず、扉から手を離す。
僅かな隙を狙い、椎葉は乱暴に扉を開く。真駒の答えも聞かず、玄関先で靴を脱ぐと……そのまま真駒に詰め寄った。
「昨日のこと……僕のこと、殺そうとした?」
ゾッとする問い掛けに真駒は俯きながら、何度も首を横に振る。
「ち、違います……ッ!」
「じゃあ、昨日のは何だったの?」
「あれは、さ、殺意とかじゃなく……ッ!」
「僕に分かるよう、説明してくれないかな」
椎葉が今、どんな表情をしているのか……真駒には、確認する勇気が無かった。
それでも『殺意があったわけじゃない』と説明しなければ、この状況を打破できないのは明白だ。
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