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第10話【同等(中編)】
真駒は俯き、自身が着ているスーツの裾を握り締めて、何とか声を絞り出す。
「昨日、のは……っ! 悪意は、無くて……」
「いきなり人の首を絞めたのに?」
「そ、それでも……俺は……ッ」
罪悪感から、視界が滲む。堪え切れず溢れ出る涙は、両目から床へ零れ落ちた。
それに気付いた椎葉が、真駒の髪を乱暴に掴み……顔を上げさせる。
――そこで真駒は、予想だにしていない椎葉の表情を見てしまった。
「あはっ、いいね……いい、最高だよ」
――笑顔だ。
真駒は、てっきり椎葉が怒っているのだと思って怯えていた。冷たい眼差しで自分を見下ろし、口汚く罵られ、最悪の結末として通報されるのでは……そこまで考えていたのだ。
なのに椎葉は、恍惚とした笑みを浮かべて真駒を見つめている。
訳が分からず、真駒は目を丸くして椎葉を見上げた。その両目から、とめどなく涙を溢れさせながら。
「昨日も思ったけど……うん。予想以上だね」
「な、何……が?」
「君はさ、僕の首をどうしたかったの? 絞めて……その後は?」
「そ、その……後?」
何度も、椎葉の首を痛めつける妄想はした。
絞めて、舌を這わせた後で力任せに噛み付き、爪で引っ掻き刃物で切り裂き……他にも、色々なことを考えたことがある。けれど、それを本人に告げるだなんて……できる筈がない。
目を泳がせ、黙り込んだ真駒を眺めながら、椎葉は更に口角を吊り上げた。
「酷いね。答えられないくらい、残虐なことを考えていたんだ?」
「ッ!」
「あはっ! いいね、可愛い」
目に見えて狼狽した真駒に、椎葉が称賛の声を掛ける。
先程から、椎葉の言っている意味が分からない。何に対して喜び、何に対して褒めているのか……真駒には、理解できなかった。
「さっきから、いったい……?」
真駒から投げ掛けられた当然の問いに、椎葉が目を丸くする。
「何?」
「何で、さっきから……『いいね』って……?」
「あぁ……分からない?」
――突然、椎葉の顔が近付く。
――真駒の唇に、温かな何かが重ねられた。
「僕は、君が好きなんだよ」
至近距離でそう告げる椎葉は、やはり笑っている。
自身の唇に押し当てられたものが、椎葉の唇だと理解すると同時に……言葉の意味を理解した。
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