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第11話【同等(後編)】
明らかに困惑している真駒を見下ろしながら、椎葉は笑う。
「驚いてる? それもそうだよね。君は本当に、気付いていなかったみたいだから」
「それって、俺が――」
『貴方の首を傷付けたくてもですか』と、訊く前に……椎葉は笑顔で、衝撃的なことを口にした。
「君がどんなに浅ましくて、狡くて自分勝手で最低な変態でも……僕は君が好きだよ」
その言葉に、真駒は背筋が凍りつくような感覚に陥る。
――それは、糾弾だ。
暗に、真駒の性癖に椎葉は気付いていると言っているようなものだった。
「酷いよね……僕の首を絞めたくせに、説明も無しに逃げ出すなんてさ」
「か、課長……っ?」
「今日だって、仮病で休もうとしてたんじゃない? 駄目だよ。いくら君が、自分の欲求を満たす為だけに僕を傷付けて気まずいからって、仕事はきちんとこなさなくちゃ」
そしてその性癖に対し……被害者である椎葉は、笑顔で非難しているのだ。
「ち、ちが……ッ」
「あれ、泣くの? 自分が加害者なのに?」
真駒は、力無く首を横に振る。椎葉はそれでも、真駒の髪から手を離そうとしない。まるで、顔を逸らすことは許さないと……そう言われているようだった。
真駒が両目から涙を溢れさせると、椎葉は満足そうに笑う。
「うん、いいね。その顔がずっと見たかった」
そう言う椎葉は、もう一度真駒に口付ける。
すぐに唇は離れ、真駒は泣きじゃくりながら懸命に言葉を紡いだ。
「な、何で……俺のこと、好きなんじゃ……っ」
「好きだよ?」
「じゃあ、どうして……っ」
椎葉の言っていることは、お世辞にも慰めには聞こえない。口調は優しいけれど、明らかに真駒を責めている。
好きだと言うのなら、どうしてそんなに辛辣な言葉を浴びせてくるのか……真駒の疑問を察した椎葉は笑みはそのまま、楽しそうに答えた。
「君が僕の首を傷付けたいように、僕は君の泣いた顔が見たいんだ」
椎葉の答えで、真駒はある可能性に気付いてしまう。
――いつも自分の心配をしてくれていたのは、近くで泣き顔を見る為?
椎葉の優しさの裏側を知り、真駒は驚愕に体を震わせる。
普段から……真駒は椎葉に監視されていたのだ。最も近くで、誰よりも早く、傷付いた顔を見る為に。
恐怖に体を震わせた真駒を見下ろしながら、椎葉は心底不思議そうな表情を浮かべる。
「その反応……心外だなぁ。僕達は同じ穴の狢ってやつじゃないか」
椎葉はそう言って、真駒に向かって挑発するよう首を見せつけた。
椎葉の想像通り、真駒は頬を朱に染める。
「ほら……好きなんでしょ? 僕の首」
「あ……っ」
「ねぇ、真駒君……取引しない?」
椎葉がそう言うと同時に、真駒の視界がグルリと回った。
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