28 / 28

第27話【衝動(後編) *】(了)

 ――椎葉が獣のような瞳で、真駒を見つめていたから。 「可愛すぎるよ、君は……ッ!」 「あっ、あッ! や、嫌です、課長……ッ! は、激しく、しな――あぁッ!」 「ごめんね、無理だ……ッ!」  十分慣らされたとは言え、戸惑わないわけがない。先程まで『優しくする』と言っていたのは何だったのか……真駒の細い腰を掴んで、椎葉は荒々しく腰を突き挿れる。  だというのに、真駒の体は痛みを訴えなかった。 「んッ、あッ、やッ! か、課長ッ、やだ、嫌ッ! 俺……ッ!」  男に犯されて『気持ちいい』と感じてしまっている自分が、怖くて堪らない。真駒は涙を流し、身をよじる。  そんな真駒の顔に、椎葉が顔を寄せた。 「真駒君、手を除けて」 「嫌、嫌ッ、嫌です……あッ」  泣き顔を……ましてや感じている顔を、椎葉に見られたくない。真駒は何度も首を横に振る。  ――そんな真駒の耳元で、椎葉が囁く。 「摘紀君」 「――ひぁッ!」  真駒が体を硬直させると同時に、椎葉は目を丸くした。  ――名前を呼ばれただけで、真駒は達してしまったのだ。  小さく震える真駒の両手を、椎葉がゆっくりと顔から除ける。 「み、見ないで……見ないで、くだ、さい……っ」  肛門性交で感じている羞恥心と、名前を呼ばれただけで達してしまった羞恥心によって、真駒の顔は涙で汚れていた。  それでも構うことなく、椎葉は真駒に口付ける。 「んぅ、ん……ふ、んっ」  唇が離れると、椎葉の嬉しそうな笑みが真駒の視界に広がった。 「あはっ。可愛い」 「う、嘘吐き……酷いです、嘘吐き……っ」 「ごめんごめん、反省しました」 「嘘――あっ、んッ」  再び椎葉の逸物で内側を擦られ、真駒は体を震わせる。  羞恥に顔を赤く染めたまま、真駒は椎葉の首に手を伸ばす。それに気付いた椎葉が、首を真駒の口元に近付けた。 「ふぁ、あ……ん、ふ……んんッ」  傷だらけになった椎葉の首を、真駒は丹念に舐める。歯を立てず、傷付ける目的ではなく……ただひたすらに、慈愛を込めて。  噛んでしまいたい衝動は、勿論あった。傷付けて、首から血が溢れ出る様を見るのは、堪らなく劣情を煽る。  それでも、今日の真駒はそうしなかった。今はただひたすら、甘えるように触れたかったのだ。  椎葉の腰遣いが次第に余裕の無いものとなっていく感覚に、真駒は椎葉の限界が近いのだと気付かされる。 「あッ、あぁッ、やッ! 奥、奥ばっかり、やッ! 俺、おかしく……ッ」 「――それは、凄くいいね……ッ」  泣き喚く真駒を見下ろして、椎葉は満足そうに笑った。 「僕は、随分と前から……君に対して、おかしくなっているからね」 「ッ!」  椎葉に強く抱き締められると同時に、奥深くへと逸物が突き穿たれる。深いところで椎葉の熱が吐き出され、真駒は体を硬直させた。 「ひ、いぅ……んんッ」  椎葉の熱を受け止めながら、真駒は首筋に舌を這わせる。  真駒の頭に『駄目だ』と叫ぶ声は……もう、聞こえない。  首を絞め、壊したいという欲求は……治まったとは到底、言えそうにもないけれど……それでも真駒は『自分自身を責めることを止められそうだ』と、頭の片隅でぼんやりと考える。 「摘紀君……好きだよ」  自分を受け止め、愛を囁く愛しい上司の背中に手を回し……真駒は小さく『好きです』と囁きで返した。

ともだちにシェアしよう!