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番外2.口直し

今日は少し、世流の様子がおかしい。 体内でチュールの神力が暴れ回り、苦しむ志郎を見かねた世流は、口付けで痛み止を作り飲ませた。 その後、意識を取り戻した志郎に部屋を追い出されてから、世流はいつもよりべったりと、徹に寄り添ってくる。 自室に戻った今も、世流は徹をベッドに押し倒し、激しく舌を絡ませ、執拗に唇を吸う。 こんなに余裕の無い世流は初めてだ。 「あっ……ふぅ……ん……よ、る……」 しかも『口直し』の名目で手を使わないから、キスをしている間、徹は身体中が疼いて仕方がない。 ……理由は、なんとなく分かっている。 だから部屋に入ってから、世流の気が済むようにさせてやろうと、黙っていたのだが…… (さすがに、もう限界だ――!) 徹はキスをしたまま、しっかりと世流の肩を掴み、勢い良く体を反転させる。 トール神の神力を持つ徹が本気を出せば、世流より断然力は強いのだ。 珍しく本気で反撃された世流は、ハッと息を飲み、上に股がる徹を見上げた。 その見開かれた目が、言外に『信じられない』と言っている。 徹は一度、フゥと軽く息を吐いた。 そして優しくにっこりと笑いながら、そっと世流の頭を撫でる。 「よ~る……今日のお前、らしくねぇぞ?」 「……何の事だ?」 顔を反らしてうそぶく世流の頬を、徹は両手で包み込み、ゆっくりと正面を向かせた。 それでも、視線だけはなおも背けようとする世流に、徹は苦笑する。 「隠したって、分かってるぞ……?」 「だから何の――」 「志郎の事だろ」 徹が遮るように宣言すると、世流の目がハッと見開かれ、唇を噛み締めた。 図星だ。 イタズラっ子のようにニヒッと笑った徹は、世流の少し乱れた頭を、親兄弟のように優しく撫でた。 「そんなにショックだったのか?」 「……兄さんの、あんな辛そうな顔……初めて見た……」 ポツリと呟いた世流は、不安を押し隠すように、ギュッと徹を抱き締める。 「……人前で、涙なんて見せない人なのに……」 徹は黙って世流を抱き返した。 口に出して言う事は無いけれど、世流が家族の事をとても尊敬しているのは、良く知っている。 父である優人の事も、世話をしてくれる光先生の事も、当然――兄である志郎の事も。 対等なのは、後にも先にもただ一人、徹だけだ。 だから世流は、三つの言葉遣いをする。 どうでも良い相手には、一線を画するための敬語。 対等な徹にはタメ口。 そして、本当に尊敬する家族を敬う尊敬語。 「愛する人を、戦いに巻き込みたくない……兄さんの気持ちは、俺にも良く分かる……けど俺は……」 一度言葉を詰まらせた世流は、徹を抱き締める腕に強く力を込めた。 「俺は……お前を巻き込みたくないと思いながら、結局は、俺達の事情に引き込んでしまった……」 徹は何も言わずに聞いている。 そんな事は無い、と言ってやるのは簡単だけど、世流が欲しいのはそんな言葉なんかじゃない。 「それで……?」 「……俺には、兄さんの心の痛みまでは、治してやれない……それが……凄く、歯痒い」 「だよなぁ……」 剣治さんから、チュールの記憶と神力を消すと決めたのは、他の誰でもない志郎自身だ。 それがどんなに辛い事でも、志郎が自分で決断した事だから―― 志郎が自分で背負うと決めた事だから―― 誰にも、代わってやる事はできない。 徹は一度、自分の唇を噛み締めた。 もし世流が同じ立場だったらと思うと―― 「――志郎には悪いけど、世流が同じ選択をしなくて……良かった」 「………」 失礼だと思ったためか、押し黙ってしまった世流から顔を隠すように、徹は強く抱き締める。 「身勝手だけど、俺は――世流にあんな顔、させたくねぇよ」 「徹……」 小さく呟いた世流は、同じく徹を強く抱き返し、静かに深呼吸をした。 志郎の選択は――おそらくその思いは、間違っていない。 「……入学式の事、覚えているか?」 「俺と徹が初めて出会った時の事か? 忘れるはず無いだろう」 即答された事が嬉しかった徹は、そっと体を浮かせ、世流の目尻に軽くキスをする。 「初めはお前、黒髪だったよな?」 今でこそ普通に、アルビノの特徴である白髪と赤目をさらしているが、入学した時は黒く髪を染めていたのだ。 「アルビノなんて、そうそう受け入れられないからな……」 口に出した事は無いが、小学生の頃は気味悪がられていたらしい。 ウサギさんみたいだね、と言っていた子供も、吸血鬼の話を知ったら急に怖がりだした――なんて話を優人から聞いた事がある。 そういう事もあり、世流は自然と壁を作るクセがついたとか。 懐かしそうに微笑んだ世流が、徹の頬にしっとりと触れる。 「お前だけだ……徹だけがこの目を『綺麗だ』と……そう言ってくれた」 入学式の日―― 新しく始まる高校生活に興奮した徹は、クラスを確認してすぐ、教室に飛んで行った。 そして教室に入ろうと駆け込んだ時―― 丁度教室から出てきた男とぶつかり、その場に尻餅をついた。 『悪い、大丈夫か?』 相手に手を貸そうとした徹は、その男の目に惹き付けられた。 『イタタ……どこに目をつけて……何ですか?』 怪訝な顔をする男に、徹はポツリと―― 『綺麗な目だなぁ……まるで、真っ赤なバラのつぼみみたいだ』 当時の話が懐かしく、世流はクスクスと笑った。 「お前があんまり強く衝突してきたから、カラコンが落ちたんだったな?」 「うぅ……ごめん」 その日の世流は、赤い目を隠すため、黒のカラーコンタクトをしていた。 それが徹とぶつかって、床に落ちたらしい。 「その上、お前は『探すのを手伝う』とか言いながら、みごとに潰してくれたよなぁ?」 「うぅ……だから、あの時すぐに謝っただろ?」 「土下座でな」 バツが悪くなって縮こまる徹に、世流はさも愉快そうにクックッと笑う。 そして膨れっ面をする徹の頭を、今度は世流が優しく撫でる。 完全に形勢逆転されてしまった。 「それで? 何で急に昔の話なんかをするんだ?」 徹をからかって調子が戻ったのか、世流はいつもの余裕を取り戻したらしい。 安心した徹は、世流の頬を両手で包み、にっこりと微笑む。 「たぶんだけど、きっとあの時からなんだ。俺が……世流を、好きになったのは――」 世流の目がハッと見開かれる。 徹の言葉を予想していなかったのか、信じられないのか――おそらく、その両方だろう。 男同士では――と、諦めていたのだから。 不意打ちに徹は、世流の唇にそっと、触れるだけのキスをする。 「入学式の間……ずっと、お前の目が忘れられなかったんだ」 照れた顔で笑った徹が、不意に真顔で、真っ直ぐに世流の瞳を見詰める。 「俺は世流の、この綺麗な赤い目に惹かれたんだ……だから、世流を好きになった事に、前世なんか関係無い」 「徹……」 少しだけ、世流の瞳が揺れた。 徹はニヒヒと笑う。 「でもやっぱ、前世の事も覚えていてぇな。そんくらい昔から、俺と世流の絆は繋がってるんだって、なんか嬉しくなるからよ」 一瞬ポカンとした世流は、急にクックッと小さく笑い出し、次第にその声が大きくなっていく。 心底嬉しそうな世流に、安堵した徹も、にっこりと笑みを浮かべる。 いつもの凛々しくてクールな世流も好きだか、やっぱり笑ってくれると、徹も嬉しい。 「徹……愛してる……」 「俺も。世流の事、凄く愛してる」 どちらからともなく唇を重ねた二人は、互いに舌を絡ませ、呼吸も忘れるほど何度も唾液をすすった。 幸せで頭がとろけそうになる徹を、世流が下からギュッと抱き締める。 チュプチュプと甘い水音を響かせ、やっと唇を離した時には、銀の糸が二人の舌を繋いでいて…… うっとりとしていた徹は、不意にぐるっと体を回転させられ、気付くと世流に見下ろされていた。 「よ、世流……?」 「こっちも、たっぷり愛してやる」 ニヤリと笑った世流が、開きっぱなしの徹の足を掴んだかと思うと、唐突にパクッと徹のモノを咥える。 「ふあぁっ……!」 世流の綺麗な顔が、自分のモノを咥えているというだけでゾクゾクするのに、その唇で扱かれたらもう堪らない。 下肢が腰から爪先までプルプルと震え、徹は自身に絡み付く舌の熱さに、快感の声を上げる。 「ふぅ……あぁっ……」 どこでこんな事を覚えたのか、世流の舌使いは絶妙で凄く気持ち良い。 その上、今まで一切手を使わなかった世流が、急に後ろのすぼまりに指を滑らせて、一気に指先を突き入れてきた。 「うぁっ……ぁん……」 喘ぎを抑えられない徹は、背中を弓なりに浮かせ、快感を逃がすように両肩をベッドに擦り付ける。 ――一瞬、達してしまうかと思った。 「凄いな、徹……まだほとんど解してないのに、二本も指を咥え込んで……待ちきれなかったのか?」 「やあっ……言う、な……あぁっ……」 内壁を二本の指で押し広げられながら、裏筋やカリを舌でなぞり、鈴口を舌先で抉られる。 二ヶ所で同時に施される愛撫に、徹は生理的な涙を浮かべ、手の甲が白くなるほどシーツを握り締めた。 いつの間にか指は三本に増やされ、徹の良い所を内側から抉ってくる。 「んあぁっ……も、無理ぃ……! 出る……出る出るぅ……っ!」 甘い悲鳴と同時に、徹の腰がビクンッと跳ね上がり、世流の口に勢い良く熱を放出した。 一気にゴクリと飲み込んだ世流は、残滓(ザンシ)まで全て絞り取るように口をすぼめ、ズズズッと吸い上げてくる。 「んあっ……あっ……」 その吸い上げられる痛みさえ、イったばかりの徹には強過ぎる快感で、持ち上げられた足の痙攣が止まらない。 徹は快感を逃がすように、激しく首を振る。 「やぁ……もぉ、やめ……あんっ……世流ぅ……」 顔を紅潮させた徹は、世流の頭を掴み引き離そうとするが、力が入らない。 「なんだ……? まだ、終わりじゃないだろう?」 一度だけ口を離した世流は、またすぐに徹のモノを咥え、執拗にチュウチュウと吸い上げる。 そのツキンとくる痛みさえも、ゾクゾクとした快感に変わろうとしていて、徹は息を詰めた。 気が変になりそうだ。 すでに、何度も(媚薬付きで)慣らされた秘部が、ゆっくりと掻き回す世流の指を締め付けながら、女のように自ら濡れていく。 トロリとした腸液が世流の指に絡み付き、動かされる度に、ヂュプックプッと卑猥な水音を発した。 休む間も無く、再び熱く燃え上がる身体が、さらなる快感を求めて疼く。 世流が欲しい…… 「く、あぁ……世流……もぅ、くれよぉ……」 懇願する徹に、世流はクスッと微笑を漏らし、唇の端を引き上げる。 「俺から離れられないくらい、たっぷりと注ぎ込んであげような……」 徹の耳元で囁いた世流が、指を引き抜き、すでに硬く勃起した高ぶりを入口に押し当てた。 無自覚の期待に、徹の喉がゴクリと鳴る。 世流は喉の奥でクッと低く笑い、その期待に応えるべく、一息に欲望の楔を徹の中に差し貫く。 「ん、あぁっ……!!」 全身が感電したように甘く痺れ、徹は快感に背中を仰け反らせた。 改めて徹の腰を抱き直した世流は、ズクズクにほぐれた秘部を激しく突き上げ、最奥を容赦なく抉る。 二人を乗せたベッドが、ギシギシと悲鳴を上げた。 「んはぁ……あぁっ、ふぅ……あっ……よる……」 押し広げられた内肉が前後に引き摺られ、愉悦の波に浸った徹が、何度も世流の名前を呼ぶ。 「徹……」 愛惜しげに名前を呼ぶ世流は、徹の手をシーツから引き離し、指を絡めて握り込んだ。 「お前は、俺のモノだ」 ――それは、世流の切なる願い。 強引なようで、実は少し危うい、意外と寂しがり屋な世流。 息を荒げた徹は、不意にくすぐったくなり、ニヤッと笑った。 「いいぜ……お前のモノになってやる。ん……その代わり――」 徹はギュと世流の手を握り返す。 「世流は、俺のモノだからな」 ……END.

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