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一三、七月七日
七月に入って一週間が経った。つまり今日は七夕だ。織姫と彦星が出会ってる夜に、お願い事なんてするもんじゃないといつも思う。それでも村中で笹飾りは作られたし、この山の中は明かりが少なくて、天の川が綺麗に見えた。だから俺は縁側で、ぼうっと空を見上げていた。
村長はまた佐久間さんになったらしい。七月に入って四日目に、そういう速報が届いたし、その日の晩に、佐久間さん自ら、タヌキを連れて俺の所へやって来た。
その節は失礼致しました。ご協力いただけなかったのは残念ですが、こちらも無事、新たな御子を発見し、村長を続投する事に相成りました。
佐久間さんはそう、いつもの輝くような笑顔で行って、それから、自分やこの村を嫌になったのなら、出て行くのは止めない、といった旨を伝えて来た。
抱かれるのは勘弁だったけど、俺は佐久間さんの事も、この村の事も嫌いなんかじゃない。むしろ好きな方だ。だから出て行ったりしないと伝えると、佐久間さんは満面の笑みを浮かべて、「これからもよろしくお願いしますね」と握手して帰った。タヌキはその間ずっと、何も言わなかった。
託宣の魔法使いが隠したりしなければ、御子はあっという間に見つかる。誰が新しい御子だったのかは知らないが、またあのイケメンは御子を食べたんだろう。伸幸さんの事を思い出したけれど、それ以上は考えないようにした。向こうの事は、向こうで解決するべきだ。そしてこっちにはこっちのするべき事がある。
スゥっと。キツネ君が現れたのはその時だ。「やあ、もう風邪は大丈夫かい?」と問えば、『橘様のおかげで』といつも通りの返事。それが少しおかしくて、笑ってしまった。
『何か……』
「いや、キツネ君の時には、キツネ君なんだなあって」
『そ、それは、万が一他の方に見られていたら、まずいですし……』
「うんうん、そうだね。上がるかい?」
そう言って自宅の方の玄関を開けると、キツネ君は少々うろたえた後で、おじゃましますと素直に入って来た。
まあ俺の家は綺麗なわけでもないし、かといってゴミ屋敷ってわけでもない感じだ。散らかっていないわけでも無いが、不潔なほどではない……と思いたい。それと万が一そういう事になった時の為にと思って、寝室ぐらいは綺麗にしておいた。尤も、寝る時以外には行かない部屋だから、元々そう散らかっていたわけでもないんだが。
とりあえず茶の間に通して、お茶など出してみたが、キツネ君は緊張したように正座したままで動かない。「何か考えてる?」と尋ねると『とても言えません』と答える。「とても言えないような事を考えているんだ……」と呟くとキツネ君はまた困ったように俯いてしまった。
しばらくの沈黙。カチコチという時計の針の音だけが部屋に響く。テレビでもつけたほうがいいかな、と考えていると、突然キツネ君が『僕を抱いて下さいッ!』と叫んだ。随分情熱的だ。
「キツネ君」
『わ、私を、先生の×××で、××して、~~ぶち犯して下さいッ!』
「き、キツネ君、とりあえず落ち着こう、落ち着こうか?」
全くどこでそんな事を覚えているんだか、某大型掲示板にでも入り浸ってるんだろうか。ね、落ち着いて、ほら、油揚げでも食べて、と油揚げを出すと、彼は仮面をバッと外して、むしゃむしゃ食べた。泣きそうな顔をしながら食べている。
「ぼ、僕は、本気です……っ」
「う、うん、でも楓君、君たぶん、言ってる事の意味判らないまま言ってるよね」
「うう……でもでも先生……ッ」
「判ってる、判ってるよ、君の気持ちが本気だってのは十分判ってる、だからちょっと落ち着こうね?」
物事には順序ってものが有るからね、ね? と言って聞かせると、赤い衣も無くなってすっかりいつもの楓君になった彼は、また泣き出しそうな顔で俯いた。
「ぼ、僕、何をすればいいのか、判らなくて……」
「うんうん、じゃあ、まず、手を繋ごうか?」
「せ、先生と、ですかっ?」
「手も繋げないんじゃ、他の何も出来ないよ。ほら」
そっと手を差し出すと、おずおず楓君も手を出してくる。が、握ろうとはしないので、先に握ってみた。楓君は一瞬ビクッと逃げそうになったが、そのまま大人しくしている。なんだろう、この、小動物と接する感じは。脅かさないように、怖がらせないように、そっとそっと、触れて行く。
「それで、とりあえず、ハグをしようか」
「は、はい、……っ覚悟は、いいです……っ」
そんなに緊張するような事でも無いのに。そう思いつつ、そうっと抱きしめてみる。改めて、楓君の身体は細くて、俺よりずっと小さい。まだ若い子に大変な事をさせてしまったんだなあ、と思いつつ、頭を撫でてみた。世間に慣れていないせいか、楓君は歳の割に少し子供っぽいところがあるような気がする。こうして頭を撫でられるのも、嫌ではないようだし。
楓君は顔を真っ赤にしたまま、されるがままだった。キスしようか、と声をかけると、ぎゅっと抱きついて来て、頷くだけで返事をする。ああ、これは大変だ。なんて初心なんだろう。こっちまで恥ずかしくなってくる。ぎゅうぎゅう胸に顔を埋めているものだから、こんな状態じゃあキスは出来ない。少しだけ身体を離させて、そっと顎に手をかける。優しく上を向かせると、楓君は何故だか涙ぐんでいて、とてつもなく緊張している様子だった。
だから、そんな風にされると、俺の方もなんだか困っちゃうじゃないか。そう思いつつ、ゆっくりと、優しく、唇を重ねる。変な言葉は知ってる癖に、キスの仕方も知らないらしい楓君は、唇もきゅっと引き結んだままだったし、苦しげに眉を寄せているし、呼吸は止めているし。息しようか? と離れて提案して、コクコク頷くのを確認してもう一度口付けたが、やはり息は止めていた。
このままでは楓君が酸欠で倒れてしまうほうが早い。とりあえずキスの仕方を教えるのは、今後の課題にしておこう。要約して抱いて欲しいと言っていたが、こんな調子で最後まで出来るのかどうか。「今日は前戯だけにしておくかい?」と尋ねてみたが、「先生にブッ込んでもらえないと帰れません」と謎の決意が固い。困ったものだ。いや別に下品な物言いは、俺だって男だから引いたりはしないが、普段が初心で大人しく丁寧な子がいきなり単語単語で変な事になると、若干テンションが下がる。いい加減、変な物の見すぎだと思った。
このまま事を進めて、「らめぇ」とかそういう今流行りの喘ぎ声なんか上げたりしないだろうか。不安になりながら、楓君の身体を開いていく。
全く、決意が固いものだから、何をされたって止めたいとも嫌だとも言わない。服を脱がせて、身体を見ても、恥ずかしそうに身を捩るばっかりで、予想に反して声の一つも出さない。押し殺したような吐息が時折漏れるばかりで、それは逆に妙にそそる。若い身体は白くて細い。そうだ魔法使いっていうのは、こういう、線の細い色白で、伸幸さんだって十分「魔法使い(物理)」の類だ。そうっとなぞるように指で身体を撫でる度に、楓君は小さく身体を震わせて、最終的に恥ずかしそうにまた俺の胸に顔を埋めた。
「……楓君、ええと、もちろん判ってると思うけど、これから俺は……」
「僕のケツに……ナニをぶちこむんですよね……」
「……あー……うん、まあそうなんだけど、……うん、いやまあいいや。その前に指で慣らさないと、かなり痛いというか、危ないから、……ちょっと足を開いてもらえるかな?」
優しく言うと、楓君がおずおず脚を開く。俺は医者だ。そうでなくても男の尻に指を突っ込んで強引に射精させる仕事もした事が有る。いわばプロだ。だから時間をかけずに事を済ますなら、楓君を横向きに寝かせて、尻を出させて指を押し込みぐいぐい押せばいいのは判っている。でもそれは雰囲気が欠片も無い。たまにこの医療スイッチが入ったままの時が有って、随分怒られたものだった。
雰囲気が欠片も無いという点では楓君の言動も十分無い。だからせめて俺の方が、いいムードを作っていかなくちゃいけない。勤めて優しく、ただし医者にはならないように、楓君の身体を安心させるように撫でながら、ゆっくりと事を進めて行った。
大体の位置も判っているし、でもただ射精させたいわけでもないわけだから、愛撫をする事を意識して、楓君の胎内に指をそっと侵入させる。彼は少し眉を寄せて、苦しげに息を吐いたが、そのまま俺に縋りついて何も言わない。そういえば佐久間さんに途中まではされてたんだっけ、と思い出しつつ、ゆっくりと指を動かす。佐久間さんも百戦錬磨のような気がするから、あの時の行為を思い出させなければいいのだけれど。
前立腺を探し出すのは簡単で、そっと何度か撫でていると、楓君が熱い息を吐き出した。よしよし、怖くないからね、と撫でてやりながら、ゆっくりと快感を目覚めさせていく。多少過保護なぐらいのほうがいい、何しろ相手は初めてなんだから。
一度されているせいか、楓君の身体は思ったよりも早く開いていった。時折彼が何か言おうと口を開いて、またきゅっと唇を閉める。何か予定していたおねだりでも有るんだろうか、いやたぶん結構下品な事を言おうとしているんだろう、なら黙っておいてもらったほうが都合が良い。雰囲気の有る性行為についてはおいおい指導していく事にして、今は黙らせておけばいい。幸い、声を押し殺そうとしているのか、言葉どころか喘ぎさえも漏れて来ない。
三本目が入ると、楓君は流石に辛そうにしていたけれど、「止める?」と尋ねても首を横に振るばかりなので、もう最後までするしかないんだろう。それに、楓君も気持ち良くはなっているらしい、彼の身体が熱を持っているから、ここで止めるのも辛いだろう。本当は後ろから入れる方が気持ち良いし、姿勢が楽なんだけれど、やはり恋人との初めての行為なら、多少無理はしても正常位の方が雰囲気が有るだろう。
何度も「大丈夫?」と確認して、楓君の反応を見る。楓君は何も言わないで、ただコクコク頷くばかりだ。まあ痛ければ意思に関係無く悲鳴も出る。逆に言えば声が漏れるほどは気持ち良くなれて無いのかもしれないが。
極めて優しく、ゆっくりと、楓君の身体を慣らしていく。声こそ出さなかったが、彼も気持ち良くはなれているらしかった。だいぶ解れてきたし、そろそろ大丈夫かな、と様子を窺う。
「楓君、もう大丈夫? ……入っても、いい……?」
優しく尋ねてみると、楓君はコクコク頷く。極力紳士で事を進めてきたが、俺のほうもそろそろ限界だ。指を引き抜くと、それだけで楓君がビクッと震えたが、そのままゴムを付けた俺自身を宛がう。
楓君は一瞬俺のを見て、それから驚いたように目を丸め、そしてギュッと目を閉じた。初めてだし、そりゃ怖いよなあ、と思う。だからって止めたりは、今更出来ないんだけど。
ぐっ、と楓君の中に押し入る。楓君は小さな呻き声を上げて、息を止めている。そんな緊張状態では俺もキツい。「楓君、息、吐こう、ほら」と頭を撫でてやると、安心でもするのか、少し力が抜ける。いい子だね、と囁きながら再び侵入すると、また力が入る。だから撫でる。何度か繰り返して、ようやく全てが収まりきった。
全部入ったよ、と教えてやれば、楓君は涙の零れる顔を真っ赤にする。そうすると、キュン、と内部が締め付けられる。ああ、この子はもしかして恥ずかしいのとか好きなんだろうか。まあ、性格的にM寄りなのは間違いなさそうだけど。もっと慣れてきたら、色々してあげようか。今はこれだけで制一杯だけど。
「……せん、せ……」
「うん?」
「せんせい、……すき、です……」
小さな声でそう呟く。そんな事は重々承知だ。たぶん、好きで好きでたまらないんだろう。それをずっと我慢して、隠してきたんだろう。
「俺も楓君の事が好きだよ」
耳元で囁くと、楓君が震えて、また内部が動く。もう大丈夫かな、と軽く動いてみると、楓君は一度「あっ」と甲高い声をもらして、それで、たまらないといった様子で俺に手を伸ばしてくる。だから抱きしめてあげた。楓君の身体は熱くて、俺にしがみついて震えている。なんてかわいい存在だろう。初めてだし、後ろはまだ苦しいだけかもしれないから、そっと楓君の前に触れてみる。そこは少し力を失っているけど、それでも熱は持っていた。なんとも愛らしい身体だ。
優しく扱いてやると、楓君がしがみついたまま、耳元で熱い息を漏らす。「せんせ、」と舌っ足らずに呼ばれるのがたまらない。何故だか名前を呼ばれるより、よほどキた。
「……楓君、動いていい?」
耳元で、尋ねるというより確認すると、楓君は少し震えて、それから小さく頷いた。それがとても愛らしい。「いい子だね」と囁きながらゆっくり身体を動かすと、楓君は涙をポロポロ零しながらしがみついてくる。
流石に後ろでイくなんて芸当は出来ないだろうし、そっと前もいじめてやると、きゅうきゅう締め付けて来てもっていかれそうになる。楓君は必死に声を押し殺して俺に抱きついている。あぁ、可愛い。この存在が愛しくて仕方ない。
ぐいぐいと扱きあげながら腰を揺らせば、耐えられなくなったのか甲高い声をもらす。「せんせ、も……っ」と聞こえた。だから、「うん、いいよ」とそれだけ返して、楓君の先端をぐにぐに撫でる。ひっ、と小さく息を飲んで、そのまま楓君はビクビクと精を吐き出す。その締め付けに俺も溜まらず射精して、それでくったりと、二人して布団に横たわった。
「先生、お願いが有るんです……」
セックスの後の、心地良い眠気にうとうとしていると、抱いていた楓君が呟く。なあに、と耳元で返すと、彼はおずおずと「先生のところで、働きたいんです」と言う。
「働くって……」
「僕、先生のお役に立ちたいんです……看護の知識は有りませんけど、雑用でもいいので……お願い出来ませんか……」
「それは、いいけど、お給金は難しいかも……」
「お給料なんていりません、僕、とにかく、働きたいんです」
聞けば、ずっと要らない子として存在していた彼は、彼なりに役に立つ方法を考えたらしい。でも事情を知っている人間は僅かだし、給料はどうでもいいから、とにかく自分も働けると言う事を確認したいのだという。
言ってみればリハビリだ。
「……でも楓君の姿じゃムリだよね?」
「そこは、ふさわしい姿に変化して行きます。……だから」
「……うん、判った。ちょうど、一人じゃ結構キツいなって思ってたところなんだ。……ほら、本家のキツネ君も、そうして社会復帰してたみたいだし。……一緒に頑張ろうか、楓君」
「……はいっ、よろしく、お願いします……!」
楓君が笑顔を浮かべた。ああ、こんな愛らしい笑顔を浮かべる子なんだ。この子がこうして笑えるようになるなら、手を貸してあげたい。そう思った。
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