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第2話
「ええと、北島夏樹さん」
「はい」
職業安定所の流れは、お役所仕事だなあって、毎回思う。
受付でカードを引いて、窓口に呼び出される。
流れ作業のように書類を出して、マッチングを受ける。
「前職がプログラマーなら、その方向で探した方がいいと思うんですけど?」
「……はあ」
「訓練校行かれたんですね。こっちは……フラワーアレンジメント?」
「そうです」
何故その選択なんだと、職員の目が語っていて、オレは肩をすくめる。
わかってる。
極端だって言いたいんだろ?
脈絡のないこのスキルで、何の仕事に就きたいんだ訳わかんねえって。
おとなしく、前職に近い資格取って、前職に近い仕事につけば話早いのにって。
それくらいオレだってわかってる。
けど、しばらくプログラムは専業にしたくないと思うんだ。
ため息をつかれながら、いくつかの会社を紹介される。
その中のひとつに面接の予約を入れてもらって、窓口を離れた。
あー。
面倒くさいけど、仕方がない。
貯蓄と失業保険で暮らせる期間なんて、限られているんだ。
モバイルのカレンダーに予定を入力して、渡された会社の資料と、外した眼鏡と一緒に鞄にしまい込んだ。
ゆるりと、視界の輪郭がゆるむ。
これくらいの方が心地いいと思うようになったのは、いつからだっけ。
多分、なんか疲れたなって、感じるようになってから、かな。
帰る前に、一服。
喫煙所に立ち寄って、タバコに火をつける。
喫煙者は肩身が狭い、とか、冬に屋外は厳しい、とかいいながらも、何故か職安の喫煙所は混んでる。
そこに混じっているんだから、人のことはいえないけどさ。
家に帰ったら、早速、履歴書を用意しなくちゃなあ、なんて考えながら煙を吐く。
さて、何を書けばいいのやら。
オレ、北島夏樹という。
このあいだの夏に二十五歳になったところ。
現在無職。
特技欄に書けるのは、いくつかの資格。
趣味は読書とパソコン、かな。
後は何があったっけ。
自分のことを考えてみると、ホントに何にもなくて、つまんねえ男だな、と思う。
ひとことでオレを表すなら『ちょっと残念』。
身長は一七〇センチあるけど、日本人の平均身長にはちょっと足りない。
既製品の服を着ることはできるけど、直しに出すほどでもない程度に、ちょっとだけあちこち余る。
裸眼で生活できないことはないけれど、文字を読んだり車を運転したり、全体的にはちょっと不便。
友人知人には恵まれてるけど、恋人はいない。
いろんな資格を取ってはいるけど、プログラムが組める以外、突出して自慢できるようなモノはない。
顔は整っているほうだと言われるけど、自分の好みじゃないし、童顔だし、記憶に残るほどの美男子ではない。
トータル、女の子には好まれるけれど、オレが好きになるのは、男。
はあ。
考えれば考えるほど、マイナスの方に向かっていく思考。
イカン、イカン。
吸いきったタバコを灰皿に落として、伸びをした。
考えていても仕方ない。
こういうときには、タスクを洗い出して、ひとつひとつ確実に片づけていくのが大事。
「よし」
鞄を持ち直して移動しようとしたら、背後から声をかけられた。
「なっちゃん?」
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