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第3話

「え?」 職安の入り口に立っていたのは、背の高いシルエット。 「やっぱり。久しぶり。今日はどうしたの? 職探し?」 手を振りながら近づいてきた人を見て、驚いた。 「要さん?」 まだ建物の中に入っていないのだろう、要さんはコート姿だった。 篠森要、というこの人とは、職業訓練校に通っていた時に知り合った。 同じコースに通っていた訳じゃなくて、何となくよく遭遇して、何となく言葉を交わすようになった人。 遭遇するのはたいてい、訓練校の入り口とか喫煙所の近くで、時間に余裕にあるときは自販機の飲み物おごってくれたりしてたんだ。 どっかの会社の役員で、法務だか経営財務だか人事なんちゃらっていう、オレには全然関係なさそうで、難しそうなコースをとってるっていってた。 オレより頭いっこ分は身長が高くて、さすが会社役員って感じのおしゃれさんなのに、未婚で、三十五歳の若造なんだと笑っていた。 大柄なのにあたりが柔らかで、全然偉そうじゃなくて、こんな大人になりたいなとついうっかり思っちゃう人。 で、何故かオレに構ってくれた人。 「偶然ですね」 「ホントだ。もう帰り?」 「はい。面接の予約取れたんで、帰って準備しようかと。要さんは?」 「今から、求人だそうかと思ってたんだけど……」 ふむ、と要さんは顎に手を当てて、考えるそぶりをみせた。 何だ。 久しぶりだから、ちょっと茶でもと思ったけど、忙しいなら仕方ない。 「じゃあ、オレ帰るんで……」 「ちょっと待って」 「はい?」 要さんがオレの肩をつかんだ。 「なっちゃん、その紹介された先は、すごく行きたいところ?」 「は?」 「もし、よかったらさ、ウチにこないかなって思うんだけど、どうだろう?」 すごくいいことを考えついたって顔で、にこにこと笑いながら要さんは言った。 「ウチの会社、退屈させないと思うし、なっちゃんみたいに器用貧乏な人が欲しいんだよね」

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