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第13話

どこかで待ち伏せされていたらどうしようと思いながら、まかきゃらやに出社した。 気もそぞろに目の前の仕事を片付けて、そろそろ昼かなってところで、大野から連絡があった。 いつもなら空き時間にメッセージを送ってくるくせに、珍しく通話で。 丁度第二資材室にいるときだったし、あんまり珍しかったから、ついうっかり出てしまった。 そして落とされる爆弾。 『ごめん、なんか山内さんに、連絡先持ってかれたっぽい』 「どういうこと?」 山内さんに、連絡先がばれた。 『プログラマーが足りてないらしいんだよね、山内さんのとこ。で、知ってるとこ片っ端からあたってるっぽい。直に俺のとこ来られたら断ったんだけど、そうじゃなくて、最近入った事務ちゃんのとこから、うまいこと言って連絡先持って行った』 「それ、まずくない? っていうか、いつの連絡先持ってかれた? 今の?」 『この間、バイトしてもらった時に聞いたやつ……ホント、申し訳ない』 ってことは、つきあってた時のじゃなくて、最新の今のやつ。 『うちの社長、超オカンムリ。で、念のためにそういうことがありましたって、持って行かれたプログラマーに連絡しとけって言われてさ』 「どういう仕事の仕方したら、そうなるわけ?」 『俺も聞きてえわ。もう、社内の雰囲気サイアクよ』 うんざりしてますって声で言って、大野がため息をつく。 これから、他の人にも電話しなきゃいけないらしい。 『とにかく、そういうことで、あの人うちの社出入り禁止になったし、お前も気をつけてくれ』 そう言って、通話は切られた。 オレは手の中のスマホを見つめる。 どうしよう。 昨夜、来たのはやっぱり山内さんだったんだろう。 あの時は連絡先を知らなかったから、あっさり諦めたようだけど…… ぶるぶると手の中のスマホが震えだす。 電話。 知らない電話番号だけど、これ、このタイミングってどう考えても山内さんじゃん! ビビってしまって、机の上にスマホを投げた。 どうしよう。 鳴り続けるスマホを、黙って見つめる。 と、止まってくれないかな……そしたら、そのすきに電源切るからさ。 いい加減諦めたらいいのにってくらい、鳴り続けたスマホが、やっと止まる。 大急ぎで、電源を落とした。 次に電源入れるのが怖いけど、でも、ちょっとこれはまずい気がする。 「どうしよう……」 昼間はまだいいだろう。 山内さんだって仕事があるっぽいから、オレにばっかり関わってもいられないはず。 けど、夕方から夜は……また、昨夜のように部屋に来るかもしれない。 「いや、まて、落ち着けオレ……」 壁に貼られたカレンダーを見る。 絶対に部屋にいちゃいけないのは、夜と土日。 今日は木曜だから、ネットカフェでも行って時間つぶして、明日の始発で部屋に戻って最低限の荷物とって……金曜の夜から土日は部屋に戻らないようにして…… って、逃げたとして、いつまで? って思うと、気が重くなる。 けど。 オレは山内さんが怖い。 絶対に会いたくない。 もう、あの人に気持ちはないのに……ないんだけど、ずっとあの人に添ってきた自分がいるのも確かで。 例えば顔を合わせて少しでも優しくされてしまったら。 無理やりだとしても身体を開かれてしまったら。 多分、オレはあの人に逆らえなくなる。 刷り込みみたいなもの。 資材室の机の上に、今日もおかれていたロリポップ。 ……大丈夫。 ぎゅっと握って、いい聞かせる。 後ろめたくなるようなことには、絶対しない。 したくない。 だから、山内さんには会わない。 ちゃんと毎日、会社で会って、笑って要さんに挨拶できる自分でいる。 要さんに顔向けできないようなことは、しない。 絶対。

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