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第12話

最近、いい噂を聞かないから気をつけろと、大野に言われていた。 その本人が思いもよらないところで目の前にいて、動揺した。 「や、まうち、さん……?」 「なんだよ、他人行儀だな。ああ、そうだ、お前今時間ある? 茶でも行こうぜ」 「あ、いや……の、オレは、これから、社に戻らなきゃで」 「いいじゃん。ちょっとくらい、なんとかなんだろ?」 グイっと引き寄せられる体。 ヤダって思った。 掴まれた腕が。 思い出しそうになる。 この体温を、気持ちがいいと思っていた自分。 今では考えられないのに。 「話があるんだよ。な、夏樹。ちょっとだけ」 「急ぎで、戻らなきゃならないんで……すいません、離して」 「なーつき。俺が話があるんだって」 「オレはないです」 逃げなきゃ。 山内さんの目は、全然変わってないんだ。 あの日、オレを切り捨てた日と同じ、低いままの熱量。 だからオレは、思い切り山内さんの腕を振り払った。 色々と言葉を重ねてくる山内さんに、どう話したのか自分でもよくわからないけど、とにかく必死に言い訳して逃げた。 逃げて、家に帰った。 そして今。 日付も変わろうかという時間帯に、マンションの呼び鈴を鳴らされて、オレは困惑する。 多分、山内さんなんだと思う。 あのヒトと別れて、前の会社を辞めた時に、オレは連絡を断とうと思って携帯を変えた。 でも、そこまでで、引っ越しはしなかった。 ここに山内さんはほとんど来たことがないし、電話とメールを変えて、仕事を変われば縁が切れると思っていたんだ。 息をひそめて、聞き耳を立てる。 足音、聞こえないかな。 早く諦めてほしい。 連絡先はまだ入手していないんだろう、オレのスマホは大人しい。 その分、チャイムとノックが交互になる。 かたん。 部屋のドアについた郵便受けが音を立てた。 そのままじっとしていたら、足音が遠ざかるのが聞こえる。 ほっと息をついたけれど、そのままオレは部屋の中で固まったまま動くことができないでいた。 なんで? なんで今更、オレにコンタクトをとろうとするんだろう。 なんて、予想はついている。 山内さんはオレをいいように扱っていた。 仕事も、身体の関係も。 だからどっちかを復活させたいんだと思う。 オレが逃げるなんて、思ってもいない。 そおっと動いて、玄関を見る。 郵便受けから落とされたらしい、名刺。 今の仕事の、なんだろうな。 ひとことのメッセージも書かれてなくて、電話番号とメールアドレスだけが書かれていた。

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