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第15話

悲しい気持ちで日曜日を過ごした。 喫煙ルームでよかったなあって、タバコをくゆらせる。 喉がいがらい。 瞼が温重いのは、煙が染みるから。 ホテルに入るときに、コンビニで買いこんだものは、冷蔵庫に入ったままでほとんど減っていない。 減ったのはタバコくらい。 夜中にロビーでひと箱買い足した。 迎えた朝、こりゃあ仕事になんねえなって、ホテルの電話からまかきゃらやにかけて留守電に欠勤を伝えた。 オレは、どうしようもない。 これからのことを考えなきゃいけないのに、どこから考えたらいいのかさえ分からない。 わかっているのは、自分の部屋に戻っちゃいけないってことだけ。 ぼんやりと、時間を過ごす。 チェックアウト時間の電話がフロントからかかってきて、延泊を頼む。 あと一晩。 タバコ、最後の一本に火をつけて、スマホの電源を入れる。 着信拒否はしたけど、どうなってるのかなって。 画面にはやっぱりたくさんの履歴があって、どうしたものかとため息が出る。 電源を落とそうとしたとき、手の中でスマホが震えた。 もう、どうでもよくなって、通話ボタンをタップする。 「はい」 『なっちゃん?! よかった、通じた! 今どこにいる? 無事?』 すごい勢いで聞こえてきた声に、驚いた。 「……要さん?」 『うん、そうだよ……なっちゃん? ね、今、なにしてるの? どこにいる?』 「…かなめ、さん……」 「あーあ、すっかりヨレヨレになっちゃって……かわいいなっちゃんが台無しだよ」 ホテルに足を運んでくれた要さんは、オレに気を使って、フロントから一報を入れてから部屋に来てくれた。 扉を開けて顔を見た瞬間に、困ったように笑って、オレの髪をぐしゃって撫でた。 「すいません」 「しかもすっかり燻製されてるし……」 「燻製?」 「この狭い部屋でどれだけタバコ吸ったの? 空調、全然役に立ってないよね」 オレの髪の匂いを嗅いで、目の下を指で撫でる。 ああ。 煙くさくて燻製ね。 狭いビジネスホテルの部屋。 オレをベッドに座らせて、要さんは備え付けの椅子に腰かける。 「まあ、とりあえず、無事でよかったよ。金曜から連絡つかないし、今日は休むし、気が気じゃなかった」 「すいません」 「声もガラガラだし……なにがあった?」 問いかけられて、答えに詰まる。 なんて答えるんだよ。 元カレから逃げてましたって、要さんにいうのか? 「すいません……」 答えられないだろ。 小さく詫びをいってうつむいたら、要さんの手が視界に入った。 ぎゅうって、オレの手を握る。 「なんてね。聞いた」 「え?」 聞いた? 聞いたって、なにを? 誰に? 「もう、大丈夫だよ」 「要さん?」 要さんの手は、身長に見合っていてオレの手より一回り大きい。 そっとオレの手を両手ですくいあげて、包み込む。 大事にそっと、あたためるように。 「時間が取れたら、飲みに行こうって約束したから嬉しくて、やっと時間が作れて、『なっちゃんとデートだ』って年甲斐もなくワクワクして、連絡取ろうとしたらスマホもメールも通じないだろ」 優しい声で、要さんがとつとつと話す。 「ひとり暮らしだっていうのは聞いていたから、何かあったら大変だろって言い訳用意して、気になって職権乱用で住所調べてさ、部屋に行ってみたら、留守だし、変な男が部屋の前で居座ってるし」 「え……?」 居座ってって……山内さんに、会ったっていうこと? 「会ったの?」 「山内って人なら、会ったよ。何をしてるのかって、彼の言い分も聞いた」 そんな。 ぐって喉の奥が詰まる。 山内さんの言い分って。 目の奥が熱くなる。 要さんの手の中からオレの手をひこうとしたら、ぎゅっと握られた。 「それで、勝手かなって思ったけど……」 言葉を止めて、要さんがオレの目の奥を探ように覗き込んだ。 それから、こつんって、額をあわせる。 「『なっちゃんは俺のだから、二度とウロチョロするな』って、殴っちゃった」 「へ?」 予想外の言葉が聞こえて、変な声が出た。 「な、なんて? 殴った? え? どういうこと?」 「だからさ、あの男、すごく不愉快だったから『なっちゃんは俺のだから、二度とウロチョロするな』って、殴っちゃったんだよ」

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