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第16話
唖然。
っていうのは、こういう気分なんだと思う。
てへって、照れたように笑う要さんの顔をまじまじと眺めた。
何が、どうなってんの?
要さんが、山内さんを殴った?
オレが、要さんのだから?
って。
……ええええええええ?!
「かっ要さん……それって……あの……」
「もう、俺の予定は狂いまくりだし、順番は無茶苦茶だし、非常に腹立たしいことこの上ないんだけど、それはなっちゃんのせいじゃなくてあの男のせいだから」
「……はあ」
「なっちゃん」
「はい」
表情を改めて、要さんがオレを見る。
「好きだよ」
今まで見た、どんな表情とも違う顔で、要さんがオレを見て言った。
「なっちゃんが好きだよ。とても大切に思ってる」
「あの……あの、でも、オレ、男ですが?」
「性別なんて些細なことだと思うんだよね」
「ささい……」
「俺が、なっちゃんのことをかわいいと思ったんだ。なっちゃんに笑って欲しいと思った。つまらなそうな泣きそうな顔でタバコ吸っているのは、嫌だと思った。性別なんかより、そういうことの方が大事だと思った」
それに、と、ちょっとだけ意地悪な顔で笑って、要さんは付け加えた。
「なっちゃん、俺のこと好きでしょう? だから、なっちゃんにいい顔をしてもらおうと思ったら、俺がそばにいるのがいいと思うんだよ」
どう? って、微笑まれても!
だって、要さんはこっちの人だと思ってなかったし、なにがなんだかで。
それに何より。
「でも、要さん、オレのこと最近はそんなに好きじゃないでしょう? 気に入ってるくらいで……」
「なんで? 好きだよ」
「嘘」
ちょっと驚いた顔をしたあとで、要さんは疑われて悲しいって、顔で訴えてくる。
だって、ホントに会社での要さんは、そんなオレを好きな風に見えなかったんだ。
「だって……呼んでくれなくなってたし」
「なっちゃんって、呼ばなかったから?」
「いや、公私混同がよくないからっていうのは、気がついてたんですけど……」
「そんなの、呼べるわけない」
「ですよね」
きっぱり言い切られて、わかりますとうなずいたら、要さんの左手がオレの頬に添えられた。
「なっちゃん、全然わかってない。みんなの前では、北島くんって呼んで、我慢しなきゃって思ってたんだよ。こんなかわいい子を特別に呼んだら、歯止めが利かなくなるじゃないか」
「え?」
「大好きだから、我慢しなきゃって、わざわざ名字で呼んでたんだよ。呼んでいいなら名前で呼ぶし、かわいがっていいならいくらでもなっちゃんって呼んで、かわいがり倒す。それくらい好きだよ」
だから、ね。
と、要さんが吐息でオレの唇にふれる。
「なっちゃんが好きだよ。俺のものになって」
「要さん……」
「なっちゃん、俺のこと好きでしょう?」
「……好き」
「うん、知ってた。だからね、俺のものになって。今回みたいに困ったことになったら、真っ先に俺に話して。こんなヨレヨレになる前に、俺に助けさせて」
うん。
そう声に出して答える前に、要さんはオレの返事を唇ごと食べてしまった。
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