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第21話
さて、その後の話。
第二資材室のパソコンにプログラム用の環境を整えて、オレは頼まれた調整作業をすすめた。
自社内での利用とはいえ、テストもデバックもオレ一人というのは、さすがにちょっと怖かった。
修正もすぐできるんだから、まあ、ちょっとだけ安心といえば安心?
でも、あまり何度もやりたい案件ではない。
やるならせめてもうひとりプログラマー入れるか、外注する先を探してほしいところ。
オフィスの方では、席替えがあった。
井上さんの隣には今、芳根くんが座っている。
会議資料の作成とか、プレゼン資料の作成とか、なんかのカタログとか、バリバリ作っているようだ。
オレの席は井上さんの隣から、営業事務の島に移った。
味を占めた営業さんがどこかから持ってきたテストプログラムとか、佐野部長にドナドナされて外部会議の会場設営とか、相変わらずの筆耕とか、事務作業とはいえない仕事がメインになったから。
ぷぷー。
最近第二資材室につけられた内線電話が、間抜けな呼び出し音を出す。
「はい、北島です」
『あ、やっぱりそこにいた』
電話の向こうは井上さん。
『北島くんさあ、筆で大きい字書ける?』
「はい?」
『佐野部長から、横断幕作ってって依頼が来てるの。ちょっと、取りに来て』
横断幕?
って、どんな大きさだ?
そんな大きな紙、あったっけ?
模造紙くらいしか思いつかないんだけどなあ……
オレはキリのいいとこまでチェックしたプリントに、附箋で印をつけて、メガネを外して席を立つ。
扉をあけたら、ノックしようとしていた要さんがいた。
「か……常務。お疲れさまです」
顔がむにゅって緩みそうになるのを、我慢した。
要さんがふふって笑ってくれる。
「お疲れさま。事務所に降りる?」
「井上さんから、呼ばれたんで」
「じゃあ、後にしようかな。これ、どうぞ」
要さんがオレの胸ポケットに、ちょい、と差し込んだのはロリポップ。
「ありがとうございます」
「すっかり、ここのヌシになっちゃったねえ」
「社長がプログラミング用のパソコン、ここから動かしてくれないんで」
そう。
オレがメインで筆耕をするようになったせいもあるけど、パソコンも結局ここに据え置きになってしまった。
なので、オレは割と長い時間をここで過ごすことになっちゃってる。
「電話番とか、来客の対応とか、もっとできるようになりたいのに」
「相変わらず、勉強熱心だよね」
くすくすと笑いながら、要さんは先に立って階段に向かう。
後ろを追いながら、ロリポップに添えられたメモに気がついて、手に取った。
『とれた。ご褒美よろしくね』
はうっ。
書かれた内容は大したことなくても、オレにとっては大したこと。
要さんとあわせて、連休をとったのだ。
オレの作業が落ち着いたので、約束を実行しようと、今朝、通勤途中で要さんが言った。
オレは今でも要さんの部屋にお世話になってるので、ほぼ一緒に通勤なのだ。
なのに、要さんは楽しそうに仕事中にオレにかまいにくる。
せっかくのオフィスラブなのに、だってさ。
公然の秘密だとしても、皆に見つからないように仲良くするのが、刺激的で楽しいだろうって言うんだ。
「すっかり仕事にも慣れたみたいで、よかったよ」
足を止めた俺を振り返って、要さんが笑った。
あの顔は、知ってる。
オレのことかわいいなあって思ってくれてる顔。
「はい、おかげさまで」
「忙しそうで何よりだけど、頼みごとしようと思ったら、北島くん捜索しなきゃいけなくなってきたよね」
「探さなくても、いいですよ」
オレはたぶん、真っ赤な顔してる。
でも、いいんだ。
「大抵は、ここにいますから」
階段の上を指さして、オレは言った。
「第二資材室でつかまえてください」
<一応のEND>
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