20 / 22
第20話
受け取ってさらっと目を通す。
基本はカレンダー機能の応用。
「じっくり見てないですけど……手を入れれば、使えないことはないと思いますよ。ただ、どこまで手を入れるかとか、どれくらい費用や時間がかかるかとかは……」
「君に割り振ったら、できる?」
「オレが作業するってことですか? 今してる他の仕事を、他の方に任せていいなら……」
「うん、それは手配する」
「第二資材室のあれ、環境整えてもらえれば、できます」
オレの返事に、社長が目を丸くした。
「え?」
「……え?」
えって何?
「できるの?」
「できますよ」
「だって、芳根くんはそれ見た瞬間『なんですかこれ』って、言ってたよ?」
ああ。
社長の反応の理由がわかって、オレはちょっと笑ってしまった。
井上さんと同じ誤解だ。
「同じパソコン業務でも、プログラムと事務作業は全然違います。オレはこっちが本業です」
よかったー、と、天を仰ぐ社長の頭を、長友部長がペシン、と叩いた。
ええ? 叩いちゃうんだ。
それにしても、なんでこんなことに?
こういう最終調整は、ホントは売り込んだ方がちゃんと持つはずなのに。
「契約書に、調整作業については何も書いてなかったんだよ」
要さんが、困っちゃうよねって指で契約書をはじく。
「何も?」
「そう。パソコン本体とプログラムだけの料金で、調整とか環境整えるのとかは、別料金扱いだった」
「それは……」
山内さんがしているのと、同じような、結構グレーゾーンの売り方。
「よくあるんだよ」
静かな顔で長友部長がオレを見て言ったから、話は伝わっているんだって察した。
「プログラマーの派遣が別料金にできれば、向こうはその分儲かるんだから、そうしたくなるのは当然。契約書に明記されていて、面倒を見てくれなかったら、詐欺だっていえるけど、でも、書いていないのだから、こっちの手落ち。こっちで何とかしなきゃいけない。そういうとこまできっちり読み込んでの契約なのが、本来の契約の結び方なんだ。なのに、この、バカ社長が!」
「よくあること、なんですか……」
「そう。腹の探り合いというか、だましあいに近いよね。でも、そういうものだ」
ああ。
オレ、山内さんの仕事を手伝っちゃって、詐欺の片棒担いじゃったのかもって、怖かった。
でもそういうことじゃなかった。
あれはそういうものなんだ。
そういえば大野も、山内さんのことは悪く言ってたけど、オレが手伝ったことは何にも言ってなかった。
逆に、山内さんにいいように使われるなよって、心配してくれてた。
だから、この仕事オレが引き受けたほうが、オレの気が楽になるって要さんは判断したんだ。
オレは、ホントに、モノを知らない。
全然まだまだだなあ。
ともだちにシェアしよう!