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第19話
出社したオレを待ち構えていた長友部長は、ものすごく難しい顔してた。
昭和のお役所スタイルで、にこにこしてるのがデフォルトの人なのに。
井上さんに挨拶する間も惜しむように、即、会議室に連れていかれたら、社長がいた。
なんていうんだろう、いたずらが見つかった子どもみたいな顔してるなって、思った。
「おはよ、北島くん。体調はどう?」
「おはようございます。おかげさまで、よくなりました」
「それはよかった」
にこにこというより、へらへらと笑う社長に向かって、長友部長が冷たく言い放つ。
「座って」
「ハイ」
どっちが偉いんだかわかんないんだけど……と、オレもさされたとこに座る。
「まだるっこしいことしてる時間が惜しいから、サクッと説明すると、ここにいる社長という役職のバカボンが、暴走してね」
「はあ」
「もともと、出ていた話ではあるんだけど、社員が抱えている仕事を共有する仕組みを作ろうとしたわけだ」
「悪い話じゃないだろ?」
「話としては悪くはない。けど、お前が暴走して、勝手に契約結んだのは、悪い」
つまり?
なんかのシステムを作ろうという話が出ていたのを、社長がどっかの会社から、いきなりパソコンとプログラムを買っちゃったってことらしい。
それも、独断で。
第二資材室に置かれたハイスペックのパソコンがそうなのかなって、気がついた。
「なんでサインする前に、こっちに契約書見せないんだ……いい加減、学べよお前」
ぞんざいな口調で説教しながら、長友部長は眉間をマッサージしてる。
ええと?
すごく社長の扱いが雑なんだけど、どうなってるんだろう?
一緒に会議室に入ってた要さんの顔を見たら、しょうがないなあって説明してくれた。
「社長と長友は、幼馴染だからね、普段はこんな感じなんだよ」
「え? でも、長友部長は要さ……常務が引っ張ってきたって、井上さんが……」
「そう。社長は俺の学生時代の先輩でね、こういう人でしょ。会社が会社として成り立つには、引き締める人が必要だから、長友に来てもらった」
前に聞いた。
まかきゃらやの前身は、学生時代の『何でも屋』だって。
バイト気分で楽しく続けてきたけど、だんだん人が増えて、取引も大きくなってきて、ちゃんと会社にしなきゃいかんだろうって、話し合ったんだそうだ。
社長は元気いっぱいな人。
他の人をやる気にするのは上手だし、挑戦させるのも上手い。
皆が『社長~!』ってついていきたくなる人だけど、事務仕事というかアフターケアというか、そういう細かいとこはさっぱりダメな人、なんだそうだ。
それで、そこをフォローしてくれる人を探していて、ちょうど職を探していた長友部長をスカウトしてきたらしい。
オレの時と、よく似た経緯。
「今回は久しぶりにやらかしてるよ、お前」
「ハイ」
「しかも、芳根くんも雇っちゃったでしょ……独断止めろって、あれほど言ったのにさあ」
芳根くん?
「パソコンできるって言ってたしさあ、話してたら詳しそうだったから、任せられるかなって」
「パソコン業務のジャンルは広いって、この間、確認したとこだろうが」
まあいいや、と長友部長はオレに向き直って、見慣れた仕様書をオレに差し出してきた。
何?
さっき言ってたプログラム?
「これ、どう思う?」
「どう、とは?」
「うちの社に使えるかな」
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