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第1話
首の辺りや手の甲辺りといった、スーツで覆われていない部分が紫外線に攻撃されているような暑さと言ったら、良いだろうか。
2人の男ができるだけ日陰を進みながら、真夏のオフィス街を歩き、自社ビルを目指していた。
「何だか普通に30℃超えてなかったら、涼しいって風潮ってなんなんすかね?」
普通に熱いですけど、と続ける今年27歳になる年下先輩・岡田(おかだ)だった。
そして、岡田ではない方の、眼鏡をかけた端正な顔立ちの男。
彼の名前は西村佑司(にしむらゆうじ)。
25歳の時に中途採用ながらも高層ビルにオフィスを構える会社に転職を果たし、僅か4年で、ヒラ社員から花形部門である企画部門の部長補佐にまで登り詰めた男だった。
「まぁ、夏は暑いものだから」
西村は汗1つかかずに言ってのけると、岡田は「さすが西村次期部長、クールっすね。よっ、クールイケメン! クール王子、いや、もうクールの神!!」と戯ける。
「王子に神って……まぁ、良いわ。うん、良いわ」
西村は岡田を諭すのを諦めると、自身の腕につけた時計をちらっと見た。町の定食屋を営んでいる両親と兄が初めてサラリーマンになったばかりの西村を祝うために渡された時計は決して高いものではないが、西村は大切にしていた。
だが、それを知らない者は何故、エリートビジネスマンとも言っても差し支えのない西村がそんな安物をしているかは分からなかった。
「西村さんならもっと良いヤツしても良さそうなのに、時計とかあんまり拘りない感じですか?」
かく言う、岡田も西村の時計の謂れを知らずに言うと、スマートフォンで時間を確認する。
時刻は12時まであと22、3分というところでランチタイムに入る前の時間だった。
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