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第17話
「失礼します、『いのさきべんとう』です!!」
今では曜日を問わずに、西村は悠二と会えている。確かに、メッセージを1日前に送ると、西村のデスクまで弁当を届けてくれるとは悠二は言ったが、やはり何かのついでがなければ申し訳ないし、悠二が会社に出入りする間に誰かに見つかると、面倒なことになりそうだった。
「いや、本当に良い部下の方ですね。佑司さんが俺の弁当を買いやすいように、社長に掛け合ってくれたそうじゃないですか」
「ああ、本当に良い部下ですよ。ちょっと軽い時もありますけど」
と西村は岡田のデスクの方へ視線を向ける。優しげで、誇らしげな西村の視線に、悠二は少しだけ妬いて、西村を抱き寄せる。
「ちょっと、ここは職場だから!!」
今はオフィスには誰もいないが、いつ誰が帰ってくるかは分からない。現に、ついさっき出て行った岡田は忘れ物の常習犯でもあり、帰宅したと思っていても、数分後によくオフィスへ物を取りに戻ってくることが多かった。
「ふふっ、大丈夫ですよ。俺もオフィスでするっていうのは興味ありますけど、折角、開拓した販売先がなくなるのは困るので」
『ちょっと抱き締めるだけ』と悠二は言うが、西村は気が気ではない。
まだ100歩譲って、定時後の誰もが帰った後の社内とかなら良いが、こんなに太陽で照らされた真っ昼間に良からぬ気持ちになっても、午後からの仕事に支障が出そうだった。
「ちょっと抱き締めるのもダメです。会社が終わってからならまだしも……」
西村は悠二の腕を振り解こうとして、暗に今はダメだが……と口走る。それに対して、悠二はにやりとして、腕を解いた。
「じゃあ、明日、会社が終わったら、週末は沢山、エロいことしましょうね」
悠二は西村を揶揄うようにまた耳打ちすると、弁当を西村のデスクへ置く。勿論、好きという言葉とキスも忘れずに西村へすると、既に販売し終えた空のクーラーボックスを持って、降りて行った。
「はぁ……」
もしかして、自分はとんでもない男に好意を持ってしまったのではないかと西村は思う。
だが、悠二の弁当を広げて、悠二のお手製の中でも特に好きなモモのゼリーを口の中へ入れると、色んな気持ちが綯い交ぜになるも、幸せな気持ちだった。
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