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第20話

「あっ……あ、熱い……要、要……っ」 仰け反り、全身を真っ赤にして泣き叫ぶ。狂おしいほどに乱れ、愛おしいほど自分の名を呼ぶ彼から目が離せなかった。もう我慢なんてできない。思いきり抱いて、甘やかして、彼が押し殺していた全てを引きずり出したい。 「好き……っ……好きだ、深月……っ!」 熱い中が激しく収縮する。彼の内腿がひときわ強く震えたとき、白い液体が膝の上に零れた。 「あ、あぁあ……っ……ん、好き……要」 涙と唾液でぐしゃぐしゃになった顔。粘り気のある、においのきつい体液。それすらたまらなく愛らしかった。矢千の全てを手に入れたい。独りが良いなんて、もう言わない。もう言わせない。 一緒に生きよう。 「深月。俺と同じ家に住もう」 「ははっ……いいよ」 将来を誓い合った夜。大切な大切な、誰にも触らせたくない宝物。これから素敵な毎日が始まる。その喜びは、突如打ち砕かれた。 『ごめん要、何か道がすごい混んでて……ちょっと時間に遅れそうだ』 一緒に暮らす家の下見をしようと、頼んでいた不動産屋に向かう日だった。深月は長年勤めた会社の退職日でもあり、車で直行しようとしていた。俺は彼の退職祝いも兼ね、近くのレストランを予約していた。 「分かった。向こうには俺から連絡しておくから、気をつけて」 『ありがとう。ちょっとだけ待ってて』 いつもと変わらない、何気ないやり取り。未練など欠片もなく通話は途切れた。ふと見上げた空は鮮やかな紫色で、ぞっとするほど綺麗だった。 実際は「ちょっと」どころの待たされ方ではなかったが、確かに約束通り深月は帰ってきた。俺のことはもちろん、自分のことすら忘れた、まっさらな状態で。 悲惨な交通事故にあった深月は、思いの外元気だった。記憶を失くしたこと以外は脳機能に異常も見当たらず、簡単な計算なら楽に解ける。 鬱になることもなく、寧ろ前向きで社交的な性格に変わった。 深月の姿をした、新しい子どもが現れたような気分だった。

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