「……なるほど、それが貴方の志望動機ということで宜しいですか」 「はい！私は御社に入社することができましたら、ファーストフード店でのバイトリーダーとして積み重ねてきた経験とコミュニケーション能力を活用して……」 「田中幸助さん。失礼なことをお聞きしますが、本当にバイトリーダーとしてご活躍なされていたんですか？」 「……はい？」 「××支店のミセスドーナッツでのお働きになられていたとのことですが」 「はい、私はそこで……」 「すみません。貴方がお話になる前に、私にもう一つ質問させてください」 「はっはい」 「バイトはいつまで続けられていらっしゃったんですか？」 「えーっと、大学二年生のころから就活を行うまでなので……最近までですね」 「あそこの店に何度かお伺いしたことがあるんですよ。カスタムホイップクリームドーナツがとても美味しいので」 「あ、ありがとうございます……」 「で、あそこの店舗で働いている人、女性ばかりですよね」 「は……？」 「奥でドーナツでも焼いていたならわかりませんが、レジ打ちの方はいつも女性ですし。最近新人さんが入社されていましたね。バイトリーダーならその方への指導なども行っていると思っていたんですが、サポートに入っていたのも女性でした。表に出ないタイプのバイトリーダーだったんですか？接客を通じていないなら、培ってきたコミュニケーション能力は社員同士のものだけに限定されますよね」 「で、ですからそれは……」 「しかも積み重ねてきた経験と？コミュニケーション能力を？活用して価値観の違いで離れ離れになりそうになった他のバイト達の間を取り持ち、結果的には一丸となって労働に従事することができ、店の売上を何倍にも伸ばしたと」 「そうですが……何か？」 「これ、ネット検索で出てきたままの文章な気がするんですが」 「え！？」 「就活、バイトリーダーとでも検索したらこうなりますよね。仲間同士の分裂からの、大団円、売上倍増。よく見ます、こういうのは。遊園地で風船を持っている幼子なみによく見かけますね。職業柄、そういったものでも勉強させていただいておりますので、すぐにわかるんですよこういうの」 「……」 「違うならはっきり違うと仰られたほうがいい。これが本当にあなたの経験だとしたら私は誤った指摘であなたの尊厳を踏みにじっているのですから」 「つ、鶴来君……そこらへんにしておいたら……」 「あと、このエントリーシートも誤字脱字が目立ちますし、履歴書の写真と現在の髪型が違いますね。面接に向けて慌てて最近髪の毛を切られた？履歴書の写真はとりあえずまあ撮っておこうっていう気持ちが見え見えですね。視線もウロウロしていますし、もっと堂々とした方がいい。あと海外へ赴き、現地の方々と交流を行ったと書かれていますが、具体的にどういったことを学んでこられたのですか？」 「え、えーっと……フランスでは観光を通し、様々な世界遺産を直接目で見ることによって、建造物から伝わる歴史の奥深さを……」 「はい、うちは保険業界ですのでそれ以上建造物についての説明は結構です。ありがとうございます。それでは次の質問へ……」