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ロマンス・トライアングル・リクルーター!

「し、失礼しました……」 青ざめた顔をした男が会議室から出てきた。 たまたま通りかかった泉 恭介(いずみ きょうすけ)の目の前を、覇気のない足取りで通り過ぎていく。 折角のリクルートスーツもあの部屋に入るまでは皺の一つもない新品同様に将来のきらめきを放っていたのに、今では見る影もない。 また手ひどくやられたんだろうな。 安易に予測がついた泉は会議室のドアノブを手に取った。 軽くひねると、中から重苦しく張り詰めた空気が彼の顔にぶつかる。こんなプレッシャーと刺々しい雰囲気に何十分もいれば、あんなくたびれた様子になるのも頷けた。 会議室の中は閑散としていた。 奥には二、三個の椅子が並んでいて長机には書類が積み重なっている。 長机から距離を置いて入り口側付近にポツンと置かれている一つのパイプ椅子が哀愁を漂わせていた。まるで世界を分断するように絶妙な距離感だ。 「何か用?片付けなら俺がやるから構わないが」 長机側の真ん中に座っていた男が渋い顔をしながら泉を見やる。 目つきが鋭い人だった。清涼感を孕んだ眼差しの底冷えっぷりを、先ほど震えながら帰っていった彼も存分に浴びたのだろうと簡単に推測できる。 シルバーフレームの眼鏡を中指で押し戻す仕草さえも威圧感を覚える。視線だけでブリザードが吹き荒れそうだ。 眼鏡の男は汚れのないスーツの襟元をただし、読んでいた書類を机の上に戻す。 軽く何かを書き込んだ後、分厚いファイルに書類を差し込んだ。 ボールペンをくるりと指で回し、机の整頓をし始める。コップだけでも回収しようと企むが、静かに手で制されたので大人しく引いた。中身は全然減っていない。 「たまたま通りかかっただけなんで大丈夫ですよ。いま時間ありますし。あの人で今日何人目ですか?鶴来さん」 「十人目だ。しかし今年は不作だな。少し突っ込まれただけで全員挙動不審になる。あと全員がバイトリーダーで海外経験があり、ボランティア経験がありコミュニケーション能力を養ってきている。示し合わせているのかと思うレベルだ」 「まあ、対策不足だからでしょうね。テンプレートじゃないですかそういうの」 「本当だったらいいのに、下手に話を盛るから駄目なんだ。嘘なんてすぐバレるのに……まったく、本当にうちに入りたいのかと思ってしまう」 几帳面を体現したような男、鶴来 睦美(つるぎ むつみ)は顔をしかめる。 改めて問いかけられた事で、どれだけの人数をさばいてきたのか再度認識してしまい、疲れが増したようだ。面接官というのも大変だなとひしひしと感じた。 そりゃそうだ、見知らぬ他人の志望動機や自己PRを永遠と聞き続けるというのも体力がいる仕事だろう。 この時期は就活生がたくさん動き出す。中小企業ではあるうちにも大量のエントリーシートや履歴書が舞い込んでくるので、総務部の鶴来は大忙しだった。

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