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ロマンス・トライアングル・リクルーター!

「もう十人も面接したんですか?さすが鶴来さん、俺も見習わないと」 「泉は営業部で、俺は総務部だ。仕事も全然違う。俺なんて見習わず、自分なりに励めばいい」 両手に大量の書類を抱えながら、鶴来は椅子から立ち上がる。 スラリとした体躯と真っ黒なスーツ。ストライプのシャツは派手過ぎず、青いネクタイが色味を引き締めていた。 自分に似合うデザインを完璧に把握し、第一印象をコントロールしている。 「営業部長はどちらに」 面接担当者は鶴来と営業部長の二人のはずだが、この部屋には鶴来しかいない。 直属の上司である営業部長の禿げ頭を思い返しながら辺りを見回した。 「途中から退出なされたよ。なんでも胃腸の調子が悪いようだ。あの人はいつも不調だな。今度、時期ではないが健康診断を勧めてみようと思う」 「ああ、胃痛ですか……」 曖昧に同調するが、泉は何となく理解していた。 確かに営業部長は胃腸が弱い。それはあの人が気立てのいい性格をしているからだ。悪く言えば、気も弱い。 押せば押すほど自ら崖に突っ走っていくタイプで、よく顧客に商品を値切られて困っている。 営業会議から帰ってきた時もげっそりやつれているぐらいメンタルが脆い。 だから鶴来さんの面接に耐えきれなかったのだろう。当事者でもないのにと鼻で笑ってやりたくなったけれど、何となく気持ちは分かった。 鶴来の質問は面接者の笑顔を凍り付かせ、同じ面接官をも引かせるほどにえげつのない応答を繰り返す。 生半可な気持ちでやってきた面接者、対策を行ってきた者の見え透いた嘘の盾を平気でけり壊すその様はまさに「面接者殺し」の異名にふさわしい。まったく動かない表情も相まって営業部長の胃も壊したに違いない。 「あ、落としましたよ」 両手に荷物を抱えた鶴来が横切っていく際に、ボールペンが落ちた。 慌てて拾って差し出すと、少しだけ鶴来の口角が吊り上げる。 凡人が見たらただの真顔だろうが、付き合いが長い泉にはそれが彼なりの笑顔だということがしっかりと伝わった。 「すまない。ありがとう」 「……あー……鶴来さん、マジかっけぇ……」 ボールペンを受け取った鶴来の背中を見送りながら、漏れ出た言葉に一人心地に頷いた。 鶴来さんは表情筋が柔らかければもっと他人受けするのに、と泉は余計なことを考える。 いいや、あの人の良さは俺だけが知っていればいい。だって俺はあの人の元後輩なんだから! 渡したときに鶴来と触れた指をぼーっと眺めていたら、遠くで自分を呼ぶ声がしたので急いで駆け出した。

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