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ロマンス・トライアングル・リクルーター!
外の空気はオフィス内のものとはまったく違っていた。
さっきまで疎外感の壁に囲まれていたのに突然青空の元へ放り出された気分だ。新調した革靴を、熱されたアスファルトがじわじわと炙る。
面接が終わり、会社から飛び出した山崎はふと振り返る。
小奇麗なオフィスだ。外装に傷みは見られないし、トイレなどの水回りも汚れてはいなかった。すれ違う社員にも嫌味な眼差しをよこす奴もいないし、珈琲も美味い。
会社説明会を受けにきてから、ここに応募しようと実は事前に考えていた。
大量の就活生を担当していたから鶴来は山崎の事を知らないだろうが、山崎は彼の事を知っていた。気真面目そうなタイプだなというのが第一印象で、同時に同僚からは好かれない人間でもあると察することができた。
ああいう真面目さは上司や顧客には伝わり好印象を持たれやすいが、嫉妬などの醜いドロドロを抱えた同僚などにはウケが悪い。
保険の営業員として働きたいと心の底から願ったことはない。正直、自分の特技を行かせられるならどこでも良かった。それがここみたいだから、という浅い理由で面接に来たものの、大正解だったようである。今ではここで働きたくて仕方がない。
自分の顔を見た瞬間、仏頂面を溶かしたあの面接官の顔色が忘れられず、胸にこびりついた。
「あー、いい人だよなぁ鶴来さんってマジで……ああいう人のところで働きてえわ」
襟元をぴっちりネクタイで締め上げたサラリーマンたちの視線をものともせず、山崎の顔面に笑みが浮かぶ。お得意の人懐っこい笑顔とはかけ離れた、嘲笑の色を滲ませた唇をゆっくり横に引き伸ばして彼はニッと微笑んだ。
「でもあの泉って人、分かりやすすぎんだよなぁ。とられたくないならもっと頑張らねえと」
もし入社出来たら、この会社でめっちゃ面白いことが出来そう。あどけなさで隠した彼の本性はすぐに雑踏に紛れて消えていった。
ロマンス・トライアングル・リクルーター!
END
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