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急募、ビッチという誤解を解く方法 1
急募、ビッチという誤解を解く方法。
俺はいま現在、恋人からどうしようもない淫乱のビッチというレッテルを貼られている。もちろん事実とはかすりもしない。
泣きながら俺を罵る恋人、五月雨(さみだれ)雄大(ゆうだい)はこの学園の生徒会長で幼なじみだ。
幼なじみ歴は何と生まれた時からという完全無欠な幼なじみっぷり。
両親が四人とも友達同士という関係なので生まれる前から顔を合わせる運命だった。
気が付いた時には雄大の面倒は俺が見ていた。俺の仕事だった。両親は四人とも忙しくて俺たちが起きる前に仕事に行き、眠ったころに帰ってくる。休日も急な呼び出しで休みが潰れることがあった。俺たち子供に愛情がないわけではないけれ一緒にいるためのど十分な時間はとれない。それもあって初等部から寮のある学園に俺は雄大と一緒に入れられた。
お盆や正月、長期の休みに合わせて家に帰れば俺と雄大の両親四人がそろって家にいる。毎日、子供のために時間をとることが難しくてもスケジュールを調整して長期間の休みを取ることは出来るらしい。六人で旅行に行っても誰かが呼び出されて居なくなる淋しさを味わわなくて済むので、俺は学園に入学したことに満足していた。
ただ問題なのは俺の容姿が凡庸であるということに加えて、雄大が大変見目麗しいということ。
そして学園は顔面格差社会だったということ。
学園の大多数を占める美形崇拝主義は決して並や不細工を排斥するものじゃない。
平凡とか普通という枠組みはつまり一番多数の人間になるのだ。
取り立てて特徴のない俺の顔は逆に何処にでもいる一般生徒ということになる。
それなのにそんな一般生徒の俺が雄大の近くでいる。これはこの学園からするとありえないことだ。俺への風当たりは相当強い。
美形の隣には美形がいるべき、雄大を見た時に俺が視界に入るのが邪魔。なんとも勝手な意見で俺と雄大を引き裂こうとする周囲にブチ切れたのは雄大だ。重度の人間嫌いになってしまった。
雄大と俺は双子のようにセットで育てられた。俺たちの両親は本当に仲が良かったので俺たち二人を自分たち四人の子供として分け隔てなく扱った。雄大が悪いことをしたら俺の父親が容赦なく説教するし、俺の悪いところを雄大の母親に叱られることはよくある。
ちなみに俺の母親は抜けているタイプの天然ボケなふんわりした人で雄大の父親も優しく優柔不断なところのあるほのぼののんびりとした人だ。躾け役は俺の父親と雄大の母親。甘やかしたり子供の味方をするのは俺の母親と雄大の父親。そんな風に役割分担していた。
俺はどちらかと言えば自分の父親の小うるさい所と雄大の母親の世話焼きなところを受け継いで、雄大はその逆にのんびりして平和な天然ボケなところを受け継いでいる。
そのせいで俺たちの関係は、俺が雄大を引っ張っている構図になりがちでそれもまた周囲から反発を招いた。
俺にある意味依存しているような雄大をよく思わず引き離そうとする周りにブチ切れた雄大は小学生時代ほぼ他人と話さなかった。俺と教師とだけ話す雄大。第一次反抗期の早すぎる始まりだった。
その頃の雄大は美少女も真っ青な可憐な容姿で澄み切ったかわいい声だった。上級生から天使ちゃんと言われてかわいがられる雄大だったが絶賛反抗期だったのでツンとした態度しかとらない。ただし、俺にだけ満面の笑顔。上級生は敬わないといけないのにその態度だったので同級生からはただものじゃないと尊敬された。ただの反抗期が大物に見えたらしい。
雄大は美少女期に信者をザクザク増やして高嶺の花としての地位を作り上げた。
ここで一番幸運だったのは、上級生たちがいたって常識的で俺に攻撃的なところが一切なく逆にかわいがってくれていたことだ。ツンと澄ました天使ちゃんな雄大は観賞用。俺は普通に話して楽しい後輩という位置づけにしてくれた。この立場は同級生や年が近いやつらにはやっかまれたが、年の差があると心が広いからか先輩たちから幼稚な嫌がらせをされることはなかった。。
思い出すとこのころが一番平和だった。
年が上がるにつれて俺に好意的に接してくれる先輩は中等部に進学していくし、それにともなって先輩たちの影響力も下がってくる。だがまだ子供だったので陰口はかわいい罵倒どまりで陰湿的ないじめを受けたりはしなかった。
暴力的な生徒や性格がねじ曲がり過ぎた人間が現れていない初等部のころは幸せだったのだ。思い返してみれば。
中学に入り天使ちゃんな雄大は美少年に変わり、俺以外に対して見下したり侮蔑の表情が板についてしまった。人間不信の王子様と化してしまった雄大は近寄りがたさが増した。俺には以前と何も変わらないかわいい雄大なのだが俺に対して否定的な発言をしたり俺を排除しようとして動く人間に対して容赦ない仕打ちをする。
そんな人間に雄大は成長してしまった。
どちらかといえばのんびりとしている雄大が暗黒進化だ。
自分を慕う人間を嫌っているのに駒にして動かす雄大。俺のことを思ってのことだと分かっても他人に対する言動がよくないと注意をした。その態度のままだと人から嫌われる、と。周りを遠ざけすぎるのも社会に出てから苦労するからと忠告した。
このとき俺はきっと正論を言っていた。
だが、世界は正義が勝つわけじゃない。
正しいことを口にしても一般的な常識よりもその場のルールに負けてしまう。
正義自体が多数決で決まる曖昧なものなのかもしれない。
俺の落ち度を挙げるなら俺を嫌う人間たちと向き合ってこなかったことだ。
いつか分かってくれるとか学園にいる間だけのことだとか嫌がらせも陰口も何もかも受け流していた。
両親に自分たちの状況を話して別の学校に行くという、普通なら考えられるそういった対処をしなかった。
俺は転校することがわがままだと思った。両親に告げるのは逃げだと感じた。
そのためなのかは分からないが、俺を嫌う人間は「いない」ことにしていた。毎日気にしていたらきりがない。でもそれは目をそらしていることと同じだ。きちんと目の前に存在する人間が「いない」はずがない。
高校になり雄大は美少年から美青年へと変わっていた。
美少女期、美少年期から合せて雄大を愛する人間は驚くほど増えていた。
今はもうかわいらしい少女のような面影はないけれど昔の雄大の写真を持ち歩く変態はたくさんいる。
そして、雄大への愛が俺に対する妬みと憎悪になっていた。知っていたけれど軽視していた。
俺を嫌っている人間は俺の中でスルー対象だから全貌を把握していなかった。多いと思っても具体的な人数などの規模を知らない。
だから、用意周到な集団レイプなんて受けてしまった。
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