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治療と情報提供先 5

※チャット表現注意   ヴぁんぷ:キー様、俺にヴァンパイアください!! 霧雨:そう言われても…… 霧雨:こういうのは運ですから…… ヴぁんぷ:課金限度額オーバーになるほどガチャって出ないのに運!? わんわん:物欲センサーw ほっぷすてっぷ:物欲センサーw 霧雨:物欲センサー? ヴぁんぷ:キー様、意味知らないなら乗らないで ヴぁんぷ:眼鏡姿の写メ送るから ヴぁんぷ:ヴァンパイアください!! 霧雨:それは見たい わんわん:それは見たい ほっぷすてっぷ:見たいか? 宮田:知りたいことって 宮田:どこまでですか? わんわん:何処まででもいいですよー わんわん:キュウちゃんに情報送っとくから見せてもらってね      なんてことない言葉にゾッとした。  なんでこのわんわんは、ヴぁんぷであるキシさんと俺が近くにいると知っているんだろう。そしてヴぁんぷをなぜキュウちゃん呼びなんだ。  吸血鬼のキュウちゃんなのか。  ほっぷすてっぷがジャンプなのは何となくわかるけど、俺がみゃん太であるのはよく分からない。宮田なんだからなまったり崩したにしてもみゃん田じゃないのか。     ヴぁんぷ:悪意がある人間と好意がある人間を全部ばばっと、で わんわん:了解 わんわん:お代は眼鏡姿の横流し権利ね    ヴぁんぷ:あれ? 俺のヴァンパイアは? ほっぷすてっぷ:よくわかんないけどヴぁんぷは自力でガチャれ ほっぷすてっぷ:って横流しw ほっぷすてっぷ:わんわん誰かにヴぁんぷの写メ売るの? わんわん:わんわんは守銭奴で有名ということに今した わんわん:お代は幸せ報告でおk ほっぷすてっぷ:ヴぁんぷの写メで幸せになる人がいるってこと? わんわん:そうそう、ちょー高値 わんわん:お菓子パック貰える ほっぷすてっぷ:やすっ ほっぷすてっぷ:ってか、それわんわんの幸せじゃん 霧雨:人の写真をそういう使い方したらダメだよ わんわん:YESゴッド わんわん:眼鏡写メは自慢用にする ほっぷすてっぷ:変わり身早すぎるw ほっぷすてっぷ:自慢になるんだw ほっぷすてっぷ:ちょっと見たいからヴぁんぷはアイコン自撮りに変えてよ ヴぁんぷ:俺がヴァンパイア手に入れたらコスしてやんよ ヴぁんぷ:なので、ください!!      疑っているのが馬鹿らしくなる和やかな会話。  これがこちらの警戒心を解くためなら大成功だ。  ほんの短い時間なのにこの空間がキライじゃないと感じる。  チャットの速度にタッチペンだと追いつけないのでモンスターの召喚でもしてみる。  何かキラキラと特殊なエフェクト。  そして、超激レアの表示。   「あ!! 俺のヴァンパイアがとられた!!」    俺のスマホを覗き込んだキシさんが叫ぶ。  ヴァンパイアというか出てきたモンスターはサボテンにしか見えない。  如何にも弱そう。これが欲しかったなんてキシさんは見た目の完璧さを裏切って残念すぎる。ヴァンパイアならなんでもいいのか。   「キー様と仲良くするとレアが出るから挨拶しに行ったのに……」 「霧雨さんならフレンドになったよ」 「えー、俺はフレンド人数オーバーって断られたのに」    つまらなそうな顔をするキシさんは見た目だけなら雄大よりもこの学園で騒がれそうなのに中身がこれ。俺のタイミングが良かったのかキシさんがうざくて断られたのかは知らない。  とにかく、これから先のとっかかりが出来たのは喜ばしい。  完璧に信用するのはマズいと思いながら騙す理由はないだろう。情報屋というのが冗談か本当かはともかく商売としてやるなら嘘を吐くリスクは犯さないはずだ。   「わんわんは何処にでも手足と目を持ってるから知らないことはないよ。知ろうと思えばの話かもしれないけど」 「この学園でも?」 「この学園だからだね。人数が多いから相当数紛れ込んでいる」 「すごい人なんだ」    名前がわんわんなのにと思わずつぶやけば「本人が自覚すれば犬どころか怪物なんだけど」とキシさんは苦笑した。   「神性を人間の合理性で暴こうとする存在が傍にいるから全部がおままごとになるみたいで話を聞いてるとちょっと参加したくなる」 「……変な宗教に入らないでよ?」 「急がば回れ情けは人の為ならず計画っていうんだけど」 「平和そうだからどうでもいいや」 「いや、これがなかなか難しくて……」    ゲームをするようになってから「親切度アップキャンペーン実施中」とか言って料理を作るようになってくれたけど、キシさん自身のついでみたいなものだし。  チャットを横目で見ながら出来上がった野菜スープを食べる。  ニンジンとジャガイモとブロッコリー。そして玉ねぎが皮ごと入っていた。  手抜きを指摘すると「漢方的に玉ねぎの皮はいいらしい」と返された。味は塩だけなので物足りなさがあるけれど身体が奥からじわっと温かくなる。ほっと一息つけた感じ。    リビング脇のプリンターから何枚か紙が出てきたと思ったら「はい、資料」と渡された。  それは名前と写真と誕生日身長体重家族構成、学歴、成績、学内での人気、その推移、趣味趣向、性癖、普段の行動時間帯、言葉通りに丸裸にされている。    だがどうにも怖いのは軽く二十人ほどの人間は全員俺の知っている相手。  ヴぁんぷとしてキシさんは「悪意がある人間と好意がある人間を全部」と言った。誰のとは言っていない。話の流れで俺だと分かっても俺は宮田であって金宮哉太ではない。  あのゲームは匿名性が実のところないのだろうか。  それにしても実名登録をするタイミングはなかったのにどうして分かるんだ。   「美味しくなかった? 醤油いる? 日本人は何でも醤油をかけたがるね。あ、味噌?」 「これって……」 「カナたんを嫌っている人間だけだと漏れがあると思ったから好意を持ってる人間も指定した。何か間違った?」    プリントアウトした一番上にある雄大の情報。俺が知っている情報ばかりとはいえ詳しくないわけじゃない。「俺様冷徹クールなのに平凡(金宮哉太)溺愛傾向に一部の人間は大盛り上がり」というわんわんメモと書かれたものの存在が謎。  生徒の間で雄大が冷徹鉄面皮と言われているのは知っていた、けれど俺様は初耳。雄大はあんなにかわいいのに。  一部大盛り上がりというのは生徒会役員と親衛隊の敵意を煽っているということだろうか。   「どこまで正しいの」 「全部だよ。わんわんは間違った情報を流さない。読み間違うのは受け手だけだ」    疑ったわけじゃないけれどあまりの情報量に信じられない。ブロッコリーを噛みしめながらピックアップされた中に雄大がいてもキシさんがいないことに気が付いた。   「俺はサポーターですらない傍観者だから」    そうキシさんは笑う。

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