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まずは行動 1
敵でも味方でもない、それがキシさんの立ち位置。
そう断言されると分かっていたはずなのに少しばかり淋しさがある。
頼るつもりはなかったのに改めて言われると突き放されていると感じる。心はどこか無理をしているのだろう。
一人で全部やらなければならないのが途方もないことに思えた。でも、もう止まることは出来ない。
「俺はセーブポイントとか宿屋みたいなものだね」
あくまでもゲーム的な説明をするのはギャグなのかオタクだからか。
キシさんは結構空気が読めない。真面目に考えるのが馬鹿らしくなる。いつだってキシさんはこういう人だから俺も深く考えないで言いたいことが言えるのかもしれない。
「とにかく、それ食べて。寝て午後から動くか考えるかするといいんじゃない?」
「そうする……。体調マシでも手はこんなんだし」
これからどうしようと息を吐き出す俺に「ゆうゆうにノートとってもらったりご飯食べさせてもらえば」とキシさんはゲームしながら言った。俺のことは話半分みたいな。そんなにサボテンが欲しいのか。話は聞かなくても、もう少し優しくしてくれてもバチは当たらない。
「――雄大がやりたいっていうならやってもらう」
「カナたんはゆうゆうに強く出れないよね。俺に対しては、いいからやれよみたいな態度なのに。傲岸不遜? 唯我独尊?」
その言い方は俺がキシさんに対して雑な扱いしてるみたいじゃないか。ってか、四字熟語を口にしたいだけだろ。
人外じみた美形でもキシさんは残念臭が強すぎるというか。なに言っても大丈夫な感じがある。俺の言葉で傷ついたりしないというか。雄大は俺のちょっとした発言で落ち込んだり俺をカナたん、雄大をゆうゆうとか呼び出すセンスもちょっとヤバイ。
いや、日本人じゃないから俺と価値観が違うっていっても最低でも十六年は日本にいる。
だからやっぱりキシさんがおかしいんだろう。
雄大のゆうゆうというあだ名は聞くたびに自適と付け足したくなる。チャットで愚痴れる程度に雄大は悠々自適だ。
「惚れた弱み?」
「どっちかというとお兄さんぶりたいから? 同い年なのにね」
それはあるかもしれない。俺が雄大の世話を焼いている、保護者をしている、そう思っているところがある。雄大に頼られても嬉しいだけだけれど、俺が雄大に寄りかかろうとは思わない。それは信頼というよりもプライドが邪魔している。
だからやっぱり雄大が俺に泣きつかなければ立ち上がれなかった。
泣き寝入りして忘れてやり過ごそうとしたかもしれない。
だって、自分についた傷なんて触れたくない。
傷の深さは知りたくない。怖いから見たくない。
「俺は自分の痛みも苦労も無視できても自分の好きな人の悲しんだり辛い姿を放っておけない」
自分のことを我慢することが出来ても自分以外への被害に目を瞑ることは出来ない。俺に何かあれば傷つくのは雄大だ。そして、今回のは俺だけに対する警告じゃない。雄大にアプローチを仕掛けてきている。俺が握りつぶせば終わる話じゃない。
初等部から寮のあるこの学園に来たのも仕事で無理をする両親を見たくなかったからだ。親元から離れるのは淋しかったけれど両親にわがままを言いたくなかった。反動でキシさんに遊んで攻撃はしていたかもしれない。
「でも、雄大は雄大で俺のせいで辛い目にあってるから」
そう、俺の期待と信頼に雄大が応えてくれたなら逆に目の前に広がるものは悪夢以外の何者でもない。そうじゃなくても今現在、地獄の中だ。愛を人質に俺は雄大を突き落としてきた。その結果を知ることは怖いけれど今日の夜には出るだろう。
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