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まずは行動 2

 何も気づくことがなかったなら、それはもういい。  雄大がこれ以上傷つかないならそれでいい。  俺は自分が部屋から出る前に雄大に向かって吐き出した言葉を訂正しない。  あれが俺の本心だ。優しさにも限度がある。  心を広く持ったとしても許容できないこともある。  それと心に広がる罪悪感はまた別物だ。  好きな人には傷ついてもらいたくないという当たり前の感情と自分だけがつらいなんてイヤだという八つ当たり。   「傷ついた分だけ誰かを傷つけて人は天秤を整える」 「それは……悪いこと?」 「俺は因果応報は当然だと思ってるよ。誰かがカナたんを批難してもその点においては俺は味方だ」 「ただ単に因果応報って言葉が好きだからとかいう理由?」 「その通り! 漢字やことわざが好きだね。積極的に取り入れて広めたいけど使いどころが難しいのが多い。というか、よく分からない」    ことわざ自体なら海外にだってあるのに適当なキシさん。  昔は漢字の書かれたTシャツを部屋着にしていた。  その姿はただの日本オタクの外国人。ちゃんぽんという言葉を使えたことに興奮するような人だからそのうち何処かの地方の方言を多用してくるかもしれない。   「キシさんと話していると気が抜ける」 「褒めてる? 昔もよく真面目に考えてって怒られたな」 「怒られてるのになんで褒められてるって発想になるんだ」 「俺のことを好きだから心配して怒るわけだから……愛だね」    キシさんの人間関係はよく知らないけど周りの人は苦労しそうだと思った。  この話の噛みあわさは異常だ。  周囲がどれほどやきもきしてもキシさんは気にせずに今みたいにマイペースなんだろう。それで救われることもある。  キシさんがいつものキシさんだから俺は俺のペースを取り戻している気がする。振り返って後悔に苛まれるのは俺らしくない。雄大に対する罪悪感だっておかしい。    たとえ俺に悪いところがあったとしても俺がされた行為の善悪とはまた別。  気を付ければ避けられたかもしれなくても気を付けなかった俺が悪いなんていう結論にはならない。  これは青信号を渡っていたら轢かれた交通事故みたいなもの。  普通は起こるはずがないこと。気を付けていればよかったなんていう次元の話じゃない。  避けられないものは避けられない。    キシさんのおかげでわんわんから手に入れた情報。  これを元に行動を組み立てないといけないけれど時間はかけられない。というよりも雄大によっては決着は月曜日の朝までには出来るはずだ。   「休んでる暇はない。……昼間の食堂を覗く必要がある」 「リストの人間と顔を合わせるならチャット画面でも見て心を落ち着けておくといいよ。カナたんには少なくともゲームプレイヤーという繋がりの仲間がいる。日曜日だからログインしっぱなしの人間も多いから話しかけたら誰かしら反応してくれる。自分だけで全部を決めることことは難しい。他人の意見はヒントになるよ」    仲間と言われて心強く思えてしまうほどにこの学園で俺の周りは敵ばかり。  わんわんが情報をくれた二十人ほどの人間で俺に好意的な人間はわずかに二人。その内の一人が雄大。  全員に嫌われているわけじゃなくてよかったと思うべきか気持ち悪いと思うべきか。    俺に好意を持っているという雛軋(ひなぎし)は隣の席のクラスメイト。ビクビクとして臆病でそれが小動物のようだと愛玩されている。顔の作りが幼くかわいらしいから俺と同じ身長でも年下に見える。    そんな雛軋は俺を犯してきた人間の内の一人だ。

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