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転生しても俺もお前も変わらない(番外編)

生まれ変わって、今度は俺は魔王城に勤める参謀だった。前世の約束を思い出したのは公務中。ふとあの寂しそうな手を思い出した。 「どうかしたのか」 俺の唯一の上司である、魔王にそう聞かれて俺は「いいや、」と曖昧に笑った。幼い頃から両親に連れられ、「お前はこの方に将来お仕えするのだよ」と言われてきた。幼いころはかわいらしかった魔王は「俺がオーサマでお前はサンボーな!」と言っていた。この頃は、まだ魔界が安定しておらず、正式な王が決まっていなかったために昼ドラばりのドロドロさがプラスされた、血で血を洗う争いが繰り広げられていたのだ。 俺がこの世界にいるのなら、アイツだって居るだろう。いや、俺の勘が「アイツはいる」と全身で訴えている。探すとしてもアイツがヒューマンだったら探しに行くのは困難の極みである。魔族であればいいのに。でも、俺と同じ魔族であるとすれば、アイツの性格上魔王になっていると思う。しかし、俺が使えているのは幼馴染でもある気難しい魔王様なのだから、きっと魔族ではないのだろう。 俺がうんうんと悩んでいると、後ろから突然魔力を感じそれと同時になにかに覆いかぶさられる。 「ミオリ様、何をそんなに悩んでいるんだい?」 俺にこんな事をするのは、魔族ではコイツしかいない。 「…ムール、抱き着くのは辞めろと言っただろう。」 俺がムールと呼ぶコイツは上級魔族のサキュバスであり、俺の背後を狙って隙あらば抱き着き、キスをしてこようとする特異な野郎である。ほとんどの魔族は俺や魔王には話しかけるどころか、抱き着こうなんて考えないだろう。魔力が己より上の相手には近づかない、逆らわない、それが魔族の性である。 他の魔族に話しかけてもらえないというのは少しばかり寂しく思うが、少し女性的な口調で話すコイツは見た目は図体のでかい男で、抱き着かれたとしても別に嬉しくない。 「え~、ミオリ様の魔力はいい匂いだからなるべく近づきたいのに…」 まあ、サキュバスは本来、淫夢を見させたヒューマンの精力を飯としているが、こうして他人との接触することでも魔力を補充することもできるらしいので許してやるのが毎度となっている。 俺は、アイツがいない世界でも生きることができる。それは現に証明されていることで、俺はこの魔族のナンバー2であるし、クセは強いが気の良い仲間たちだ。この時はそう思っていたのだ。 *** ここのところ、魔王城が荒れている。 仕事は滞っているし、下級魔族がウロウロしている。 「ミオリ様…そろそろ休みましょうよ」 心配そうに俺の顔を覗き込もうとするムールに、苦笑いをする。いつものふざけた笑みを引っ込めて、真摯に見つめてくる様子に少し照れてしまった。 「ムール、そうは言っても城にうじゃうじゃいる下級魔族やら、協定を結んだ魔族たちへの対応もまだ終わっていないのに、休めるわけないだろう?」 ムールが真剣に心配してくれているとわかるからこそ、俺はきっぱりとした口調でなるべく優しく諭す。きっとコイツもこの状況もわかっているからこそ、「願い」に近かったのかもしれない。あっさり、身を引いたムールに俺は悪いな、と言って俺より背の高い淫魔の頭を撫でた。 「…ミオリ様は、あの神子のところに行かなくていいの?」 そう、この魔界が、というより魔王城が機能しなくなったことによる魔界の崩壊寸前というこの状況。すべての始まりはこの世界に神子が召喚されたことであった。 ヒューマンが、世界の調和のために呼び寄せたとされているが本来の目的は、ヒューマンによる魔界の進出。つまり、ヒューマンがこの世界全てを支配するために、神の使い とされる神子を召喚し、魔族に膝をつけ、と命ずるためであった。 その神子は、なにかの間違いでヒューマン達の住む領域ではなく、魔界に召喚されたらしい。らしい、というのは俺は神子に関するすべてを人伝で聞いており実際に会ったことがないのである。 そこから、というものの魔王を始めとした、魔王城に住まう魔族たちが次々と仕事を放棄し神子の世話に勤しんでいるという。さらに、本当に神子であるか疑いたくなるほどに、口の悪さや食べ物への慈しみ、行動の粗暴さが目立つのだという。 確かに、神子が召喚された時期から”アイツ”の気配が濃くなったのだ。 もしかしたら、神子がアイツなのかもしれない。異世界にいたから、今まで出会えなかったのかもしれないと思うと納得できるのである。噂だけ聞くと、アイツではないような気がするが…。 まあ、アイツが神子なんてタマじゃねえよな…と笑っていると、ムールが不思議そうに首を傾げた。 「もしかしたら、ミオリ様の想い人が神子様かもしれないんでしょう?…それなのに、あなたがする必要のない仕事ばかりやらされて…そんなに魔力を消耗して…」 確かに、一目見て確かめたいし、神子の周りにいる魔王諸共職務室へと強制連行したいのだが…。 「ムール、今大切なことはなんだ?…俺の恋の成就より、俺達魔族の平穏を取り戻すことだろう。」 そうだけど…と言葉を続けようとするムールを目だけで黙らせる。俺は、易々と死ぬような身体ではないが、そろそろ我慢の限界である。魔王をシめ、それでもこの状態が良くならないようなら、俺はこの城を出よう。そもそも、魔族は一匹狼な気質の奴の方が多いのだ。今までのように、協定を組み互いのテリトリーを荒らさぬよう「きまりごと」を守っていたという事が、逆におかしいのだ。 そう決意した瞬間、不思議な事に己の瞳から熱いものがこみあげてくるのがわかる。 「ミ、ミオリ様…?」 「よお、マオウはいるか?」 空間を切り裂いて現れたのは、会いたくて会いたくて仕方がなかった、アイツだった。 涙は留まることを知らないようで、勝手頬を伝っていく。 時空を歪めて、再び見えた彼は俺の記憶より少し背が高く、鍛えられた身体をしている。手に持つ剣は、異世界より召喚されし勇者のみ所持することのできるシロモノだった。 「魔王をぶっ倒して、姫サンをさらいに来た」 …誰が、姫だよ。俺はそんな柔い生き物じゃねえ、そう反論したいのに、こみあげてくる熱いもののせいで喉がひりついて、なかなか声がでない。 こちらまで近づいてくる勇者を俺は凝視することしかできなかった。一歩ずつ、確かめるように近づく彼が愛おしくてたまらない。 俺の右手を取り、手の甲にキスを落とした勇者は、実に嬉しそうにしている。その瞳は、アメジストのように輝いていて光が当たり、さらに輝きを放っている。 「待たせたな、オリ」 「…待ちくたびれすぎて、俺が探しに行こうとしただろ」 減らず口が、と言われたけれど俺の口角が下がることはなく、握られた手を握り返して、手を放す。 「それで?勇者サマはこれからどうする気で?」 「…神子がいるせいで、この世界のバランスが崩れている。神子の強制送還と、魔界の再建、人間界の掃除だな」 きっと、こんなに簡単に言ってはいるが相当難しい事だろう。二つの世界を動かそうと言うのだ。それでも、コイツの隣にいるのは、俺だ。 一緒にやってくれるか?少し不安そうにこちらを見つめる目を見て、俺は不遜に笑ってやった。 「誰に言ってんだ?俺はこの魔界のナンバー2だぜ?…今じゃ魔王が腑抜けだから、俺がこの世界の頂点だ」 ―― 魔王並びにその部下たちは、ミオリによるスパルタ教育が施され、神子は強制送還。 人間界は勇者様が統治しました。 本編と番外編で、誰が同一人物(と言っていいのか)か、わかったらこっそり教えてくださいね。

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