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プロローグ―運命の輪―

 あの青年は、いったい何処へ行った?  じっと底の見えないような眼で、文彦を真正面から見据えていた、あの端正な姿は?  埠頭のギリギリ端に立って、その白い横顔は、ただ間近に広がる夜の海を見ている。 (俺の心もいっそ連れていけ――)   文彦は黒い海に弾ける白い飛沫を眺めて、独りごちた。  そう、運命の歯車が一つ、二つ、ぐるりと回って、この愛が何処かでかけ違ってしまったのなら。 「But beautiful……」  愛は静謐なようでいて狂おしく、それでもなお、美しい。  そのうすい色の唇は、ゆるやかに低く、そして柔らかな声で口ずさんだ。  やがて、うつむいて、透明な微笑をした。

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