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第13話
隊長は目と口を硬く閉じ、頬を這いのぼって、唇から侵入しようと蠢く触腕を拒む。
下半身を飲み込もうとする魔物を蹴りつけるが、効いた様子もなく、白い上着の裾の中に魔物の腕が潜り込んでいく。
「ッ、おい、カイヤ……!」
「はい……っ」
距離を詰めながら返事をすると、
「目ぇ瞑ってるとな、よけいに、ッ……ひぁッ!」
めくれ上がった裾の下で蠢く触手が、脚の間に巻きついている。
「なに遊んでるんですか……。行きますよ……っ!」
強靭な触腕と再生力を持つテンタクルの、最大の弱点は熱だ。
赤熱した杭を振りかぶり、魔物の胴体に深く突き刺す。
体内の水分が一瞬で沸騰し、立ちのぼる甘ったるい蒸気とともに、巻きついた触手が白く茹だった。
隊長が、のしかかってくる死骸を蹴り飛ばして逃れる。
「あちっ! あちあちあちっ、ちんこ煮えるっ!!!!」
前を抑えて床を転がっているのを見下ろして、
「……元気そうでなによりですよ」
思わず溜息をつきながら、床に落ちた、粘液まみれの眼鏡を拾い上げた。
「ほら、眼鏡こっちです。怪我ありませんね?」
「ねーよ。な、眼鏡かけて?」
と、隊長はふざけた調子で小首をかしげ、目を瞑ったままキスを待つように唇を突き出して上向く。
苛立ちに任せて、ねばついた眼鏡をそのまま、ぐさりと耳の上へ通した。
「わ゛ーーっ!! おまっ、拭けよ!」
「どうせ顔も粘液まみれでしょう。自分で拭いてください」
慌てふためく姿に多少溜飲が下がる。
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