3 / 4
第12話
こちらに後ろを取らせまいと狙ってくる触腕を一本ずつ切り飛ばして数を減らし、ようやく隙ができた。
これなら、とマジックダガーを握る左手に力が籠もる。
「隊長、そろそろ……!」
「っん……。もう、かぁ?」
不快な触腕から解き放ってやれる、そう思って顔を上げたこちらに、隊長はずり落ちかけた眼鏡越しに、熱っぽく潤んだ青い目を向ける。
「もうちょっと、遊んでても構わねえけど?」
「いい加減に、してくださいよ!?」
わざと反らしてみせた首筋の、詰襟の隙間に触腕の吸盤が吸いつき、鬱血の赤い痕を残す。
ちょうどこちらに向かってきた触腕を、怒りを込めて切り飛ばした。
身悶えするように振りまわされた触腕が壁にぶち当たり、跳ね返ったその先端で、隊長の眼鏡が弾き飛ばされ床に転がる。
「やべっ」
これまでこの状況を楽しみきっていた隊長が、初めて顔色を変えた。触腕を牽制していた手を離し、目元を覆う。
「目閉じててください!」
視覚を経由した呪いの防護は、アドレキアの鉄則だ。
壁や天井の燭台からは今も絶え間なく、邪淫の呪いを込めた光が降り注いでいる。惑わされれば、魔物と戦うどころか自ら巣に飛び込んでいきかねない。
目を閉じ動きを緩めた隊長を、勢いづいた触腕が捕らえた。半透明な肉と粘液をまとった表皮が歓喜するように蠢き、胴回りにぎちりと巻きつく。
ともだちにシェアしよう!