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第11話
「まーずいな……。こいつ外に出しちまったら面倒だぞ。始末書とか減俸とか、主にそういうやつが」
隊長は億劫そうに呻くと、ナイフについた粘液を振り払い、ぼりぼりと頭を掻く。
その切っ先で正面扉、さらに先の詰所を指した。
「あいつら、新人の門兵以外で誰か残ってると思うか?」
「五分五分、でしょうか……」
と答えながらも、本当のところ八分二分くらいだろうと思っていた。アドレキアの人間は誰しも、職務より欲望に忠実だ。
「ふたりじゃ不利ですよ」
「けど無理ってわけでもねえだろ?」
粘液の溜まった穴に逃げられては追えない。話しながらも、触腕の間合いの外から挑発をかけ、ゆっくりと壁際へ引きつけていく。
「カイヤ、お前マジックダガー持ってるな?」
突き刺すだけで即座に発動できるよう、あらかじめ各種の魔術を仕込んだ装備品だ。
見かけは短剣よりも、細工をした金属の杭と言ったほうが正しい。
「……あります、けど」
「じゃ、囮んなってやるから、後ろからヤれ。一息に行けよ?」
「アンタそういうこと言わないと気が済まないんですか……!?」
駆け出した隊長に続き、魔物を前後から挟む位置を取る。
粘液を撒き散らしながら広がった透明な触腕を透かして、隊長の余裕ぶった笑いと、隠しきれない緊張が伺える。
攻撃で奪われないようナイフを鞘に収め、空手のままで振りかぶった腕に、ぬめぬめと滑る軟体の腕が巻きついた。
「ぅっひえ~……! 気色悪ぃ!」
「なんでちょっと楽しそうなんですか!」
後ろ側にも警戒を残し、なかなかこちらが攻撃する隙を与えない。
その間にも無数の吸盤が二の腕から胸へと這いのぼり、隊服の上から隊長の胸元や、腋下に吸いつく。
触手の中心の口からは蘭のような、むわりと甘い匂いをさせた消化液が滴って、石畳に糸を引いている。
「んっ、なんだ? お前こいつで……ッ、と! 遊んだことねえのか」
「いいから下! 気をつけてくださいよ!」
隊長のカーゴパンツでは、防護の施された制服と違い、液体や毒を通してしまう。
わざわざ忠告するまでもなく、軽口を叩きながらも確実に消化液のしぶきをかわす。
「ここまででかいのは厄介だが、幼生は結構便利だぞ? ぬめぬめしてて、よく吸いついて」
「わかりました、アンタが本物の馬鹿だってことが」
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